研究課題/領域番号 |
18H03400
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
二又 裕之 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 教授 (50335105)
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研究分担者 |
新谷 政己 静岡大学, 工学部, 准教授 (20572647)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 嫌気的廃水処理 / 細胞外電子伝達機構 / 微生物電子共生系 / バイオミネラル / 硫酸還元細菌 / 微生物燃料電池 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、社会基盤維持の上で必要不可欠な廃水処理のトータルコスト大幅削減に向けた超効率的嫌気廃水処理技術の構築を最終目標とする。本年度は、このRBMを用いた嫌気廃水処理がどの程度有効なのか、について解析した。活性汚泥を初期MLSS 1500 mg L-1とし、人工廃水を容積2000 mLのリアクターに添加し、初期COD600 mg L-1となる様に人工廃水を供給した。外部抵抗を51 Ωとし、MLSS、CODおよび電流生産を経時的に測定した。電流値あるいはCODの減少が確認された際に、新鮮な人工廃水と半分交換する回分式連続集積培養をHRT4 hとした循環回分運転を行った。なお好気処理運転では、2日毎に新鮮な人工廃水と半分交換した。細菌の16S rRNA遺伝子を標的としたPCR-DGGE法に基づく多次元尺度構成法(MDS)による解析を実施した。対照系の汚泥増加速度は約73.8 mg L-1 day-1、汚泥は22日で初期設定値の2倍量である3000 mg L-1に達した。一方、RBM添加系では運転48日以降MLSSは932.9±118.8 mg L-1、未添加系では1365±176.7 mg L-1で推移し、RBM添加による効果的な汚泥減容が達成された。両リアクターともCOD平均分解率は約80%、RBM添加系での単位汚泥量当たりの平均分解速度は0.088±0.031 mg L-1 day-1 ppmMLSS-1と、未添加系の約1.5倍、好気系の1.9倍であった。細菌群集構造解析の結果、RBM添加に伴い特異的な細菌群集構造の形成が確認された。以上の結果から、RBMを電子受容体として利用可能な微生物群が特異的に集積することに伴い、嫌気的廃水処理能力の向上に寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、社会基盤維持の上で必要不可欠な廃水処理のトータルコスト大幅削減に向けた超効率的嫌気廃水処理技術の構築を最終目標とし、それに向けて、(1)モデル微生物として分離株Desulfovibrio sp. HK-II株の細胞外電子授受機構の解明、および(2)蓄電バイオミネラル(RBM)を電子授受の場として構成される電気的微生物共生系における代謝プロセスを解明することである。本年度は、このRBMを用いた嫌気廃水処理がどの程度有効なのか、について解析した。 本年度の研究により、RBMを起点として特異的な細菌群集構造が形成されることが明らかとなった。この結果は、RBMの酸化還元電位に適応可能な微生物が細胞外電子伝達機構により電子をRBMに渡していることを示している。興味深いことに、RBMの影響は電極表面の微生物群だけでなく、浮遊微生物群にも影響を及ぼしていた。この結果は、廃水中の有機物分解微生物を経て電極上の微生物からRBMへ電子が渡る一連の電子フローが形成されていることを示唆している。 これまで、微生物燃料電池を廃水処理能力向上に応用した事例は多く報告されているものの、細胞外電子伝達機構の促進を主眼とし蓄電性バイオミネラルを応用し、嫌気的廃水処理の効率化に成功している事例はほとんどない。また、廃水処理能力だけではなく、その実体である微生物群集構造を解析し、その本質に迫る研究は希少であり、学術的にも応用面からも十分な評価に値すると考えられる。以上、研究全体の進捗状況から、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
Desulfovibrio sp. HK-II株由来RBMの添加によって、未添加系と比較し有機物除去速度は最大で約2倍、運転期間中を通じて除去速度は高い傾向を示した。培養槽内における浮遊細菌群集構造が異なったことから、発酵性微生物の活性増加にRBMの添加が寄与していることが示唆された。添加系におけるMLSSは、未添加系のそれの約70%で推移したこと、一方で発生した電流密度に大きな差が無かったことから、細胞外電子伝達がより低い電位(即ちより高いエネルギー準位)から電極に渡されていることが示唆された。 実用を考えると処理効率を現状の少なくとも10倍から30倍以上に高める必要がある。予備実験において、同様の負電極を流れ方向に垂直方向に設置した場合には、処理効率の向上は確認されなかった。また、これまでの報告からも、負電極の表面にのみバイオフィルムが形成され、負電極の内部にはほとんど微生物が付着していない。そのため、改良のポイントとして電極と廃水の接触効率を上げることが必要不可欠と考えられる。 RBM添加が嫌気的廃水処理の効率化に寄与することが示された。重要な点は、微生物の細胞外電子伝達機構の理解である。また、RBMを起点としてどのような微生物群集構造―特に微生物電子共生系―が形成されるのかは、学術的および応用面からも理解すべき重要な点である。そこで来年度は、HK-II株の細胞外電子伝達機構の解明に向け、適切な電位の探索と細胞外電子伝達に関連する遺伝子およびタンパク質の解析を実施する。また、昨年度より集積培養しているRBM添加系集積培養物の機能および微生物群集構造の解析を進める予定である。
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