本研究の目的は、社会基盤維持の上で必要不可欠な廃水処理のトータルコスト大幅削減に向けた超効率的嫌気廃水処理技術の構築を最終目標とする。その為、微生物細胞外電子伝達(EET)機構の理解に向けて(1)微生物燃料電池(MFC)の由来のDesulfovibrio sp. HK-II株のEET機構の解明、および(2)蓄電バイオミネラル(RBM)を電子授受の場とする微生物電子共生系を解析した。 (1)HK-II株のEET機構解明の為、細胞外電位がHK-II株の代謝に及ぼす影響が解析された。電子供与体として酢酸を用いた。その理由は、硫酸呼吸下では電子供与体の乳酸は酢酸までにしか変換されないものの、電極呼吸下では電子供与体として酢酸を利用でき、かつ、硫酸還元が生じない為である。負の電極電位では電流生産は生じず、+0.1 V 〜 +0.6 V(vs SHE)では酢酸の消費と電流生産が確認され、+0.3 Vから+0.4 Vおよび+0.6 VにおいてEETの促進が示唆された。予想に反して、ヘム染色によるタンパク質の発現パターンは電位による差異は確認されなかった。その為、EET機構の全体像を把握する為、ゲノム情報から推定されたEET関連タンパク質の転写量解析およびトランスクリプトーム解析を進めている。 (2)HK-II株が生産するRBMを用いて微生物電子共生系の解析を実施した。RBMの添加により、酢酸の消費速度とメタンの生成速度の向上が確認された。この結果は、群集内での電子移動が円滑であることを示唆している。そこで群集構造を比較する為、16S rRNA遺伝子アンプリンコンシーケンス解析を実施した。その結果、RBMによって特異的な群集構造へと変化していることが統計学的に示された。その為、RBMはEETの活性化に伴う嫌気微生物群の代謝活性、引いては嫌気廃水処理の向上に有益と示唆された。
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