研究実績の概要 |
省資源、省エネルギー、炭酸ガス排出量削減の観点から、高度循環型の製鉄プロセスの構築が指向されており、将来に向け鉄源としての鉄スクラップの使用比率向上が最も重要な課題の一つとなっている。その一方、近年、様々な機能を持った合金の普及やスクラップ形状の複雑化などにより、スクラップ使用時における種々の不純物元素の混入は避けられない上に、既存のリサイクルプロセスにおいては非常に除去が困難である循環性元素が存在する。今後のスクラップ使用比率向上により予想される鋼中循環性元素濃度の上昇が鋼品質におよぼす影響を正確に把握し、①循環性元素の無害化、②スクラップ利用の拡大、③高価な合金元素添加量の精緻制御、さらには④新たな合金鋼・高機能鋼開発・製造に結びつけるためには、その基盤として鉄中循環性元素に関する熱力学データを整備することが重要である。それらの熱力学データで利用できるものは限られており、循環性元素と種々の遷移金属元素との相互作用係数については少なく、特にCr鋼など合金鋼中のデータはほとんどないのが現状である。そこで、鋼中Snの熱力学的挙動を把握するための基礎として、化学平衡法によりFeならびにFe-18Cr中Sn-M(B, Ni, Mo)間の相互作用係数を求めた。これらの新たに得られた値により、溶鉄中Sn-M間において必要な熱力学データは概ね確立した。さらに、本研究で得られた熱力学データから、任意のCr濃度のFe-Cr中Snの相互作用係数の予測式を導出した。
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今後の研究の推進方策 |
今後のスクラップ使用比率向上により予想される鋼中循環性元素の中でも最も重要なCu濃度の上昇が鋼品質におよぼす影響を正確に把握し、①Cuの無害化、②スクラップ利用の拡大、③高価な合金元素添加量の精緻制御、さらには④新たな合金鋼・高機能鋼開発・製造に結びつけるための基盤となるCuと種々の遷移元素、合金元素間の熱力学データの整備を行う。Cu-遷移金属元素間の熱力学データで利用できるものは限られており、特にCu-Ti, Mn, Nb, Mo, W間の熱力学データはこれまで全く知られていない。そこで、これらのデータを得ることを目的として研究を進める。 本研究のアウトプットにより、溶鉄中循環性元素の代表であるCu, Snに関する熱力学データが整備される。これにより、スクラップ利用時における溶鉄中各成分活量が把握できるようになる。したがって、高価な合金元素添加量を精緻に制御することが可能となる。さらに、近年熱力学諸量はデータベースとして利用され、凝固・熱処理時の現象解明にも用いられるため、それを通して鋼品質への影響が予測できるようになれば、スクラップ利用の拡大につなげられるなど波及効果は大きい。
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