研究課題/領域番号 |
18H03408
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
根岸 淳二郎 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (90423029)
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研究分担者 |
東城 幸治 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (30377618)
宇野 裕美 京都大学, 生態学研究センター, 特定准教授 (30803499)
川西 亮太 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特任助教 (50609279)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 河川管理 / 地下水 / 物質循環 / 遺伝子解析 |
研究実績の概要 |
河川および水辺の生態系の健全度評価のために地下指標生物を用いた手法開発を行った。第一に、河床内30-50cm深度から採取した無脊椎動物群集と河畔で採取した羽化水生昆虫個体に対して、前年度同様に、ミトコンドリアDNAによる遺伝子解析を実施し、種の対応関係を確認した。これにより、イシカリミドリカワゲラに加えて、ホソカワゲラ科の2種が河床間隙を水生幼虫時に主な生息場として利用することが明らかになった。第二に、河床内30-50cm深度から採取した無脊椎動物群集を秋、冬、春と異なる季節に採取することで、間隙域の季節利用および間隙種の生活史および間隙域の食物網構造の季節変化を把握した。これにより、イシカリミドリカワゲラおよびホソカワゲラ科2種は、羽化時期に該当する夏季以外は河床内に留まり、また、最長3年の寿命を有することが明らかになった。間隙域の食物網構造は季節を通じて安定しており大きな変化は見られなかった。第三に、河川から河畔に飛翔移動する水生昆虫成虫を生物量や炭素量に換算し、河床由来および河床表面由来に分けて、河川―河畔物質循環における河床間隙生物の重要性を定量把握した。これにより、夏季には、河川から河畔へ移送される生物量や炭素量のおよそ60%を間隙由来の種が占めることを明らかにした。一方で、間隙種として分類されたホソカワゲラ科2種は、春季に多くの個体が河川から河畔へと飛翔移動した。したがって、これらを考慮した計算を行うことで、間隙域由来の生物量や炭素量は現在の過小見積もりから大きく変化することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画以上の進展が見られ、順調である。河床間隙域の環境評価には直接的な採掘などの物理的に困難で労力を要する作業が通常伴う。本研究は、間隙域に生息する昆虫類が羽化を通して陸上に出現する現象に着目して、水生昆虫を地下指標生物として用いる技術開発に取り組んでいる。本年度の研究により、イシカリミドリカワゲラという単一種でなく、ホソカワゲラ科も含めた複数種がその幼虫時に主に河床間隙域に生息すること、さらに、その羽化成虫の種同定をすることができた。本種の羽化成虫はその種同定を外部形態により容易に行うことが可能である。したがって、本種を地下指標生物として用いる妥当性が確認され、今後の研究をさらに推進できる。また、生活史の概要も把握されつつあり、河床面を主な生息場とする種に比べて比較的長い寿命を有すること、そして通年河床内を利用することなどが明らかになった。寿命の長さは、河床内の栄養条件があまり高くない(質の高い有機物の現存量が低い)ことに関係があるかもしれない。さらに、生活史の理解が進んだことで、間隙域生息水生昆虫種の個体群動態やその維持機構が今後明らかになる基盤を得ることができた。そして、河川―河畔の物質循環における間隙域の重要性を定量的に評価することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、河畔域の消費者への波及効果および得られた知見の一般性の確認が必要である。また、遺伝子解析による種の対応関係は、一部の種に対して未実施である。消費者への波及効果については、間隙由来水生羽化昆虫が河畔消費者のエサ資源として貢献する度合いを定量的に評価する。このために、羽化昆虫の時空間的な移動動態をより詳細に把握し、さらに炭素や窒素などの物質量としての定量評価を行う。特に、今年度に得られた知見から、数的に卓越するホソカワゲラ科が間隙種であると判断された。これを考慮した上で、通年の生物量や炭素量の観点から、河川―河畔の物質移送量の定量化を再検討する。また、河畔域に生息するクモ類やオサムシ科昆虫などを対象に、安定同位体比分析と群集構造の把握とその時空間変異を定量化して、間隙域から供給される資源量との関係性を明らかにする。一方、一部遺伝子解析が未整理の種については、遺伝子解析を実施した上で、それらに対しても間隙域指標種としての有用性を検証する予定である。知見の一般性の確認については、現在対象にしている道東に位置する十勝川水系札内川以外に空知川(富良野市)、十勝川本流、札内川下流、幌内川(苫小牧市)において捕虫トラップを設置済みであり、すでに通年の観測を実施している。これら多点から得られた試料について、間隙域指標種としてイシカリミドリカワゲラおよびホソカワゲラ科2種に焦点を当て、その羽化量や炭素・窒素安定同位体比を簡易的に定量化する計画である。
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