研究課題/領域番号 |
18H03413
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
内田 雅己 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (70370096)
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研究分担者 |
大園 享司 同志社大学, 理工学部, 教授 (90335307)
森 章 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 准教授 (90505455)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 極地 |
研究実績の概要 |
本研究では、グローバル・ライントランセクト調査によって、カナダ北極ツンドラ生態系における土壌微生物の種多様性を解明し、その多様性を規定する環境要因を解明する。さらに、土壌微生物群集が潜在的に保有、および既に発現している機能を解明し、急速に変化している北極ツンドラ生態系に与える土壌微生物の影響を推定することを目的とする。 カナダ東側の北極ツンドラ域は北緯55度-84度に分布しており、直線距離にして3000kmを超える。最南端の森林限界付近のクジュアラピックでは、年平均気温が-4度、7月の気温が13度、無雪期間は5-9月と5ヶ月もある。一方、最北の調査地であるワードハント島は年平均気温が-17度で7月の平均気温でも-1度と氷点下であり、無雪期間は1ヶ月弱という非常に厳しい場所である。 本年度はカナダ東部・クジュアラピックの北に位置するサルイットおよびさらに北のポンドインレットの土壌からDNAとRNAを抽出した。増幅した遺伝子領域は次世代シーケンサーで塩基配列を解読したのち、遺伝子型による分類および遺伝子型の存在割合を明らかにした。 マイクロアレイ分析のため、試料をアメリカの分析機関に輸送した。分析にかなりの時間を要したが、年度内にデータが送られてきた。得られたデータを元に微生物の機能群に関する情報の分析を現在行っている。 サルイットの土壌から検出した遺伝子数は、クジュアラピックの土壌とほぼ同じ水準であり、機能遺伝子数についても同様の傾向が認められた。一方、機能遺伝子(DNA)のα多様性は、クジュアラピックよりもサルイットの方が、ばらつきは小さくなっていた。主成分分析の結果によると、クジュアラピックとサルイットのDNAに基づく群集は分かれていたことから、異なる微生物群集が両地域には生息しているものの、機能の視点では似通っていることが示唆されてきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土壌試料からのDNAおよびRNAの同時抽出やその後のPCRによる増幅を安定的に実施できるようになり、分析試料の作成を確実に実施できるようになったこと。また、アメリカへの冷凍サンプルの輸送についても、速やかに行えるようになった。得られたデータ量が膨大なため、現有の解析用コンピュータではかなりの時間を要しているが、これまでに一定程度の結果が得られてきている。
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今後の研究の推進方策 |
得られたマイクロアレイ分析結果を用いて、クジュアラピック、サルイットおよびポンドインレットにおける土壌微生物の機能について、発現している機能および潜在的な機能について、調査地毎の特性を調べるとともに、調査地間の比較を実施する。 カナダ・最北部の土壌からDNAおよびRNAを抽出し、増幅させる。次世代シーケンサーで塩基配列を決定する。それぞれの試料について遺伝子型による分類および遺伝子型の存在割合を明らかにする。試料はマイクロアレイ分析のためにアメリカの機関へ分析を依頼する予定だが、新型コロナウイルス蔓延の影響により、アメリカへのサンプルの冷凍便での輸送、その後の分析機関による分析が予定通りできない可能性がある。状況が好転しない場合は、これまでに得られたデータを用いて調査地の環境データを組み入れ、温度環境などと土壌微生物群集やその機能について比較研究を実施するとともに、温暖化による応答の可能性について分析・考察する。
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