研究課題/領域番号 |
18H03417
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中谷 隼 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (40436522)
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研究分担者 |
飯田 晶子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (90700930)
渡部 哲史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (20633845)
乃田 啓吾 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (60646371)
中村 晋一郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30579909)
武 正憲 筑波大学, 芸術系, 助教 (30724504)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 消費パターン / 生活の質 / 全球気候モデル / 土砂流出モデル / フットプリント分析 / 多地域間産業連関表 / パラオ / 石垣島 |
研究実績の概要 |
1. 地域の消費パターンの実態調査:伝統的な食生活や近代的なライフスタイルによる地域住民のQoL調査に基づき,食生活を中心とした将来の消費パターンのオプションを設定するために,対象地域において現地の協力者を募り,まず聞き取り調査とアンケート調査などによって食生活やライフスタイルの実態を調査した。特に,伝統的な生活文化や地域内での食料生産の衰退,輸入食品への依存度の高まりなど,食生活の変化の進行に着目した。 2. 全球気候予測活用手法の基盤構築:伝統的な食生活を支える食料生産は,降水量の影響を受けることが少なくないため,気候変動に伴う降水変化は地域の持続可能性にとって将来リスク要因となる。地球規模での気候変動の予測情報を島嶼地域を含む地域スケールの分析に役立つ情報に変換する技術の開発に取り組む必要があるため,膨大な気候変動に関する予測情報から,各地域の将来変化の推定に重要な情報を抽出するための基盤を構築した。 3. 土砂流出モデルの基盤構築:島嶼における食料生産に伴う土砂流出は,観光資源でもあるサンゴなどの地域の環境にも大きな影響を与える。水田の塩水化(塩害)が顕在化している島嶼国もあり,その原因として海面上昇や耕作放棄の影響が指摘されていることから,影響を回避できる土地利用の面積や形態を,地域における食料生産の環境制約として明らかにする。本年度は,そのための土砂流出モデルの基盤を構築した。 4. 輸入に伴う資源消費のフットプリント分析:沖縄県における食品需要を分析対象とし,その資源制約として土地(耕地)利用を指標とした。沖縄県産業連関表から県内の食品生産の構造を分析し,農業関係統計を用いて県内の食品生産に伴う耕地利用を分析した。さらに,貿易統計から輸入食品の種類と量,輸入相手国を調査し,多地域間産業連関分析による内包型原単位を用いて食品輸入に伴う耕地利用フットプリントを分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 地域の消費パターンの実態調査:概ね予定どおり進行している。具体的には、食生活を中心とした消費パターンについて、石垣島とパラオにおける聞き取り調査やアンケート調査などによって,来年度以降の将来予測の基本となるデータの収集を行うことができた。パラオでの調査結果は,カウンターパート先の学生が米国国立衛生研究所の国際研究集会にて口頭発表を行った。 2. 全球気候モデルの基盤構築:パラオおよび石垣を対象として,地球規模での気候変動の予測情報から各地域の将来変化の推定に重要な情報を抽出した。パラオに関しては構築した活用手法をもとに,気候変化と社会変化の関係性の分析を進め,その結果を欧州地球科学連合の国際研究集会で発表するなど,一部前倒しで研究を進めた。石垣に関しては,気候変化による台風や梅雨などの社会的な影響の大きい事象の解析を進めた成果を論文として発表した。当初の予定通り進行している。 3. 土砂流出モデルの基盤構築:土砂流出モデルの基盤構築は,パラオを対象として順調に進行し,モデルの検証まで行った。さらに,地域における食料生産の環境制約の指標として土地資源利用効率を提案した。また,パラオの塩害に対する地理的な脆弱性と耕作放棄の関係を明らかにした。以上のように,当初の予定以上の進捗があったと言える。 4. 輸入に伴う資源消費のフットプリント分析:食品輸入に伴うフットプリント分析は,耕地利用を対象として当初の予定に従って進行している。さらに,地域産業連関表や農業関係統計を用いることで,当初の予定にはなかった地域内の耕地利用についても分析が進んでおり,十分な進捗があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
1. 実態調査に基づく地域の消費パターンの設定:平成30年度にパラオで実施した都市および農村の214名を対象とした食生活アンケート調査の結果を分析し,消費パターンの変化および将来のパターンの推計を行う。また,平成30年度に石垣島の観光情報誌をもとに作成したデータベースを分析し,観光者が地域の特徴的な料理として嗜好するメニューを選定し,それに利用される食材を抽出する。さらに,フィリピンおよびカンボジアにおける水資源を中心とした消費パターンの変化を,現地の統計資料を用いて推計する 2. 全球気候モデルなどに基づく将来シナリオの設定:平成30年度に気候変動予測情報から抽出した情報をもとに,気候変化の影響が社会に及ぼすリスクを考慮するための社会シナリオに関する検討を行う。社会シナリオの構築に際しては現地行政や民間へのヒアリングやワークショップを通じて,対象地域であるパラオおよび石垣に即したものを作る。社会シナリオを踏まえた上で,それらへの影響が大きな気象要素に注目することによる,気候シナリオの再構築も必要に応じて実施する。 3. 土砂流出モデルの基盤構築:パラオの事例に基づき提案した土地資源の利用効率について,他の島嶼地域一般に適用可能かを検討する。平成31年度は,その準備として,石垣島を対象とする土砂流出モデルに必要な土地利用,土壌,気象等のデータを整備する。 4. 輸入に伴う資源消費のフットプリント分析:平成30年度に多地域間産業連関分析による内包型原単位を用いて分析した,沖縄県における食品輸入に伴う土地利用フットプリントを,構造経路解析によって輸入相手国および土地利用国ごとに分解する。その結果に基づいて,土地利用の観点から地域の食生活や食料生産のリスク要因となる食品および輸入相手国を特定する。
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