研究課題/領域番号 |
18H03426
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 晶寿 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (30293814)
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研究分担者 |
堀井 伸浩 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (10450503)
藤川 清史 名古屋大学, アジア共創教育研究機構, 教授 (60190013)
伴 ひかり 神戸学院大学, 経済学部, 教授 (70248102)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 炭素排出 / 国際移転 / 中国 / アジア / エネルギー転換 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究から,中国のエネルギー・気候変動政策が国内外のエネルギー産業とエネルギー構造に及ぼしている影響の概要,その影響とそれをめぐる論争が国と産業による相違を明らかにした. 森・金は,2014年の中国の石炭輸入禁止がアジアのエネルギー転換に及ぼした影響を分析した.結果,インドネシア・ベトナムは輸出を国内消費に回すことで,インドは有利な条件で石炭輸入を拡大することで影響を吸収し,石炭消費と温室効果ガス排出を増加させたことを明らかにした.そして,この結果をインドネシア科学院(LIPI)及びジャワハナールネルー大学で報告した.それを踏まえてSombodoは,インドネシアで石炭消費の増加の抑制を可能にする技術的措置を探求し,担い手と実現可能性に関する考察を加えて上記LIPIでの研究報告会で報告した.またJanardhananは,インドの石炭火力発電への転換が大気汚染の深刻化と水不足により早晩持続困難となること,そのため再エネ増加が拡大するエネルギー需要の充足に不可欠なこと,現時点では再エネ市場が大きいために,中国製品とインド製品との間で競合が起こっているわけではないとの知見を得た. 堀井は,中国の石炭利用規制の強化と再エネ政策の変更の国内影響を分析した.結果,石炭利用規制は石炭ボイラー製造業の収益に負の影響を及ぼしていること,買取価格引き下げによる再エネ導入への負の効果は各省別の「再エネ発電割当制度」によって相殺されることを明らかにした. 藤川・伴は,中国の石炭利用規制が国内交易・国際貿易を通じて引き起こすと想定される雇用の減少と国内・国際的炭素リーケージの大きさを時系列で評価した.結果,中国は先進国に比べると労働集約的であることから,中国の投資減少よりも少額の先進国からの投資で雇用の減少を緩和できるとの知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
森は,中国の「炭素排出移転」に関する先行研究を整理し,その発生要因とメカニズム,アジアのエネルギー構造への転換に及ぼす影響に関する仮説を設定した.そして国内外の協力者を含む研究会で検討し,本チームの研究者がそれぞれの研究の中で検証できるように操作可能性を高めた.並行して,アジアのエネルギー構造転換への影響分析を,金,Sambodo,Janardhananと共同で進め,インドネシアに関する分析を終えた.さらに年度途中から服部を研究協力者に加えることで,日本への影響分析に目途をつけた. 藤川・伴は,炭素リーケージに関する文献、再生可能エネルギーを考慮したGTAP-Power Data BaseおよびGTAP-E Power Modelを用いた分析に関する先行研究の文献を渉猟し,こうした問題に関する理解を深めた.データに関しては,国際産業連関表の利用可能性について調べた.GTAP-Power Data BaseおよびGTAP-E Power Modelの利用可能性についても目途をつけた. 堀井は,中国の電力・エネルギー政策と電力産業の構造転換に関する文献サーベイを進めた.結果,当初の想定よりも電力産業構造と規制状況に関する変化が大きいことが分かった.このため,当初計画で2018年度の実施を予定していた中国の石炭発電ボイラー製造業に関する分析は,初歩的な検討にとどめ,当初2019年度の実施を予定していた脱石炭化を目論んだ環境規制と再エネの導入政策に関する動向分析を優先的に進めた. Budyも,GTAP9のGTAPAgg2データベースを基にアジア各国のデータを合算したSocial Accounting Matrixを構築し,アジアエネルギー市場統合による石炭火力発電とその排出削減効果の分析に目途をつけた. このことから,「おおむね順調に進展している」と評価している.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,まず2018年度の計画から遅延したベトナムエネルギー経済研究所との共同研究及び研究委託を開始させる.並行して金は,ベトナムの今後の低炭素発展やエネルギー構造転換シナリオにおける中国要因の分析を進める.森はこの分析を支援しつつ,Janardhananとともに,インドのエネルギー構造転換に中国企業とインド企業が及ぼしている影響の分析に着手する. 堀井は,中国の石炭発電ボイラー製造業の競争力の変化に関する分析をより深化させ,国内外での設置状況,外国での設置を促す政府の支援策の効果の分析に着手する.再エネに関しても同様に,2018年度に情報収集した規制の変化に伴って、中国の風力タービン・太陽光パネル製造業の競争力の変化の分析を開始する.研究協力者の小倉は,対象を途上国全体に拡大して,再エネ政策の導入が中国からの再エネ発電機材の輸入に及ぼす影響を定量的に分析する. その上で,それぞれ国内外での聞き取り調査や資料・データ収集を行って分析を進め,その成果を戦略国際問題研究所(CSIS)のJane Nakano研究員を招聘して開催する2019年7月の研究会で報告しフィードバックを受ける.そのフィードバックや,その後の中国やインド等での現地聞き取り調査を踏まえて,11月の全メンバー参加の中間研究報告会にて主要な分析結果とその含意を報告し,英文ドラフト作成に向けた最終討議を行う.その前後の期間を活用して,現地の政府機関や大学で聞き取り調査やワークショップを開催し,研究結果の妥当性を検討する.そして3月末までに英文で論文ドラフトを完成させる.
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