研究課題/領域番号 |
18H03451
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
清水 郁郎 芝浦工業大学, 建築学部, 教授 (70424918)
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研究分担者 |
上北 恭史 筑波大学, 芸術系, 教授 (00232736)
中村 真里絵 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 外来研究員 (20647424)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水辺集落 / 文化的景観 / チャオプラヤー川 / メコン川 / CBT / ムワンファーイ / スピリチュアル・ランドスケープ |
研究実績の概要 |
研究2年目となる2019年度は、2018年度に実施したタイ、アユタヤとチェンマイにおける研究の補足調査を8月に、ラオス南部チャンパーサック県でメコン川の中州に立地する水辺集落での調査を9月に実施した。アユタヤではCommunity Based Tourismを積極的に推進する集落で、在来の文化資源のなにをどのように観光資源と読み替えているのかを識別し、キャナルや古民家、ローカルフード等が該当することを明らかにした。一方のチェンマイ、メーチェム郡では、堰を使った伝統的な灌漑ムアン・ファーイが文化的景観のもっとも重要な要素であることから、これを維持する社会組織について集約的調査を行なった。具体的には、調査対象集落を流れる河川流域に組織される8つのムアン・ファーイ・グループの成員数、成員所属集落、それぞれのムアン・ファーイがカバーする農地の範囲、グループの参加資格と義務等を明らかにした。 一方、メコン川の中州では人々の生活は川と密接に関わり、漁撈と雨季における河川の増水を利用した水稲耕作が生業の中心である。この集落で、伝統的な文化的景観と近年の変化、文化的景観の基礎となる生業に関する調査を実施し、河川-集落-農地-森林と、河川から内陸に向かって景観が組織されることを明らかにした。 この調査により、生態的環境だけでなく寺院、墓地、先住のクメール人による遺構など、宗教や信仰に関わる事物も文化的景観に深く関わることから「spiritual landscape」概念の着想を得た。そこで、2020年1月と3月に、儀礼実践や信仰に関わる事物、場所の同定、建築物の実測を含む景観マップの作成、儀礼当事者へのインタビュー調査を同地の一集落で行った。加えて、2019年11月にラオス国立大学で開催された国際研究フォーラムに参加し、海外研究協力者2名とともに本研究の成果を発表する機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、現在まで当初予定通りに進捗している。2019年度は、タイのアユタヤとメーチェムでの補足調査、ラオスのチャンパーサックでの予備調査と本調査、さらに同地におけるスピリチュアル・ランドスケープに関する調査と、複数の調査を行なったが、各地で集約的な調査を実施することができ、ほぼ想定した通りの一次資料を得ることができた。 アユタヤでは、水辺集落がもともと持つ在来文化をどのように観光資源化することが可能かという観点からCBTの推進を積極に行う集落を選定したが、そこでは複数の在来文化を組み合わせ、統合することで、小規模だが持続可能なツーリズムが成立していることを確認した。また、メーチェムでは、実際にひとつのムアン・ファーイ・グループによる堰の修復作業を見学する機会を得た。重力灌漑と呼ばれるこの方式は、山がちな北部タイにおいて顕著にみられ、米を主食とする人々の生に関わるもっとも重要な水の管理を複雑に発達させた。修復作業には当該の堰からの水を使う100人以上の人々が村を超えて集まり、大小合わせて数百にのぼる堰の修復を行った。こうした共同性が文化的景観をこの地で持続させるひとつの動力であることは間違いない。 ラオスのチャンパーサック県における調査では、文化的景観を把握する際に、生態や家屋のような人工物ばかりでなく、墓地、祠、遺構、寺院等、儀礼神事や宗教的観念に関わる事物や信仰を表す空間が重要であることを知ったことが収穫である。この点は、理論的整備とともに実証的なデータを収集し、文化的景観概念の拡大を試みたい。 このように多岐に渡る現地調査を実施したが、調査地までの移動に時間がかかることや景観全体を対象とした悉皆的調査を行うために、より集約化、効率化した調査方法を考えたい。現在は収集した資料の整理を進めており、複数の報告を2020年度日本建築学会大会その他で発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2020年度は、ラオス、ルアンパバーン県の水辺集落で伝統的居住文化と文化的景観の研究を実施し、さらにチャンパーサック県における霊的景観の実態把握に関する補足調査を実施する。ルアンパバーン県では、主要河川ウー川流域に多様な民族集団の集落が立地する。とくに、タイ系諸族は河川に沿って集落を開き、水稲耕作と漁撈を生業としながら生活する。年度前半に予備調査を行い、その後8月から9月に本調査を実施する。一方、チャンパーサック県では、昨年度に引き続き、霊的景観の様態を把握するための補足調査を行う。信仰や儀礼実践に関与する場所のより詳細な実測調査、場所の同定を行い、また、人々の暮らし全般がこうした信仰や儀礼実践と有機的に接合している様態を示す資料を、ヒアリングやインタビューを通して収集する。 10月または11月には、前年度に引き続いてラオス国立大学で開催予定の国際研究フォーラムに参加し、本研究の成果報告を行う予定である。具体的には、タイのアユタヤ、チェンマイ、ラオスのチャンパーサックで行なった研究成果を総括し、分担者、海外研究協力者とともにひとつのセッションを組織して発表を行う。また、年度後半には、2021年度に開催予定の国際タイ学会へのエントリーを各分担者、研究協力者と進め、2021年前半に予定される登録とアブストラクト提出を準備する。本研究の総括的な成果報告を行い、成果の発信を試みる。 現在の新型コロナウィルスの感染拡大は、研究を推進する上で大きな不安材料となっている。研究対象地であるラオスおよびラオス入国に際して経由地となるタイは、外国人の入国を実質的に禁止しており、両国の研究協力者も出国や他県への越境が不可能な状況にある。今後の日本政府の海外渡航に関する方針および調査対象国、経由国への渡航可能性を慎重に判断し、最善の選択をしながら研究を推進していきたい。
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