本研究課題の最終年度、4年度目であった。本年度は、事後選択する状態を素早く切り替える遅延選択を付加した量子チェシャ猫の挙動を観測する実験の結果の出版を試みた。いくつかの科学雑誌へ投稿したが、いずれも主観的な見地からの不合理な理由により掲載を却下された。最終的な細部に渡る改定を行った後に、現在 Scientific Reports 誌に投稿し、レフリー、エディターからの裁定を待っている。 フランス・グルノーブルのラウエ・ランジュバン研究所(ILL)の研究用原子炉は2022年に大幅なアップグレードのための工事が行われている。そのため、今年度が工事前の最後の実験の機会となり、2つの実験を行った。まず第一に、3光路干渉計を用いて量子チェシャ猫の3つの自由度の分離実験を行った。この実験のために新たなスピン回転装置を設計・制作した。そして第二に、2つのスピン回転機に異なる周波数を適用して、マッハ・ツェンダータイプの干渉計における2光路の同時弱測定の実験を行った。この実験はすでに2回ほど実験を試みたが、いずれも、スピン回転機における温度コントロールが十分に機能せず、最終結果に到達しなかったので、今回は温度調整に細心の注意を払って実験を行った。ラフな解析の結果では、両実験ともおおむね良好な実験結果が得られたとの感触が得られており、第一の実験の出版に向け現行の執筆に取り掛かっている。 北海道大学においては、昨年に引き続き、原子波干渉実験を行うための環境整備を進めた。昨年は、レーザー冷却用の光源の波長の安定化システムの構築を行ったのに引き続き、Rb原子のリコイルに用いる光源の波長の安定化システム化を試みたが実験に手こずり、いまだに磁気光学トラップ(MOT)の実現に達していない。ここでは、当初の予定よりも大いに実験の遅れが見られる。
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