研究課題
当初の計画通り以下の2つの研究を進めた。1)共鳴非弾性軟X線散乱装置の高度化による高エネルギーマグノン観測手法の開発試料中のマグノンの分散を共鳴非弾性軟X線散乱によって3次元的に測定するためには、試料回転(θ)と分光器回転(2θ)の2軸を連動して共鳴非弾性軟X線散乱のスペクトルを取得する必要がある。しかし、現状ではθと2θそれぞれ単独での回転に対応しているのみであったため、θと2θを連動して制御し、回折計に準ずるθ-2θスキャンを行うことができる測定システムの開発を行った。完成した測定システムでは、既報の共鳴磁気散乱の観測などから、目的通り回折系に準ずる測定が可能となっていることを確認しており、マグノン分散の測定を行うことが可能となった。また、高周波印加によってマグノンを誘起させた状態で測定を行うオペランド測定向け、真空中にマウントされた試料に真空外から高周波を導入する実験環境を整えた。2)X線偏光歳差分光法の開発開発を行うX線偏光歳差分光法とは、マグノンを有する試料に直線偏光のX線を照射するとマグノンの歳差運動によって、散乱されたX線の偏光面が歳差運動(回転)する現象を利用して、マグノンのエネルギーを測定しようとする分光法である。取得すべき物理量は散乱されたX線の偏光面の角度で、これの試料からの距離依存性を測定することによって偏光面の回転の周期、すなわちマグノンの周波数(エネルギー)を知ることができると提案されている。回転している偏光面の角度は、多層膜からの反射強度を測定する偏光解析の手法を用いることによって可能であることから、偏光の歳差運動成分を抽出するために多層膜と位置分解型の検出器を組み合わせ、X線偏光歳差分光法を実証できる実験環境の構築を行った。
2: おおむね順調に進展している
2018年度に予定していた共鳴非弾性軟X線散乱装置の高度化、X線偏光歳差分光法のための実験環境の構築を達成しており、順調に開発が完了している。また、2018年度後半に取得したビームタイムにおいて、共鳴非弾性軟X線散乱によって磁性体のkz方向のマグノン分散の観測に一部成功していることから、順調に進展していると考えている。
高度化を行った共鳴非弾性軟X線散乱のθ-2θスキャンシステムを用いて、試料中のマグノンの3次元的な分散の取得を目指す。また、試料に高周波を印加することによってマグノンを誘起させ、それによる共鳴非弾性軟X線散乱スペクトル変化の観測を試みる。X線偏光歳差分光法の開発については、開発した装置を実際に用いて実験を行い、X線偏光歳差分光によるマグノンの周波数=エネルギー測定を試みる。より低エネルギー=長波長のマグノンの測定には、より長距離の位置依存性の測定が必要になるため、実験結果に応じて、新たな多層膜や位置調整機構の導入を検討し、より低エネルギーのマグノンのX線による観測まで行えるよう開発を行う。
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