研究課題/領域番号 |
18H03470
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森島 邦博 名古屋大学, 高等研究院(未来材料・システム), 特任助教 (30377915)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 原子核乾板 / イメージング / エマルション / ミューオン / トモグラフィ / ピラミッド / 可視化 |
研究実績の概要 |
宇宙線ラジオグラフィは、宇宙線中に含まれる素粒子ミューオンが持つ極めて高い透過力を用いる事でX線では観測が出来ない巨大構造物(ピラミッド、原子炉、火山、建築物など)の内部を非破壊で可視化する技術であり、申請者らは写真フィルム型検出器「原子核乾板」による宇宙線ミューオンラジオグラフィ技術の開発を推進してきた。これまでに、2015年には福島第一原子力発電所2号機の内部状況の初めての可視化、2017年11月には、エジプトのクフ王のピラミッド内部に存在する未知の巨大空間の発見、などの成果を挙げている。本研究では、原子核乾板を用いて観測対象物の周囲または内部の複数地点からの同時観測により観測対象内部の3次元密度分布の可視化を可能とする「宇宙線ミューオントモグラフィ」の実現を目指す。 本年度は、検出器開発として、位置と角度の両面から高い精度が得られる両面塗布ガラス乾板の開発として異なる厚さの基材を用いた試験を開始した。また、実データ取得のためにエジプトのクフ王のピラミッド内部、イタリアのナポリの地下遺跡およびホンジュラスのコパン遺跡において複数地点でのデータ取得を実施し、一部の遺跡ではLiDAR等で取得された3次元形状データを解析に用いる方法についての検討を始めた。取得したデータの再構成については、遺跡だけではなく人工構造物も対象として、原子核乾板で検出した宇宙線ミューオンの飛跡情報を活用する3次元化再構成アルゴリズムの開発を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、原子核乾板の高精度化とそれを用いた大面積検出器としてのシステム開発、およびその3次元再構成手法の開発を行う。本年度は、原子核乾板の高度化として、ガラス両面塗布乾板の異なる厚さの基材による試験を開始した。この開発により、高い角度精度および位置精度での3次元再構成が可能となる。異なる複数の検出器間の相互位置関係を求めるために、3次元測量(LiDARによる3次元スキャニング)を検出器設置後の現場で実施する手法の検討を行い、ホンジュラスのコパン遺跡において取得されたデータの分析を始めた。この手法により、例えば、遺跡の内部形状が正確に図面化されていない場合でも設置した2つの検出器間の距離と遺跡全体の中における設置位置情報の高精度化が期待出来る。検出した宇宙線ミューオンの再構成技術については、本年度および昨年度までに取得したクフ王のピラミッド内部の観測データを基にした開発を進めている。また、橋梁の内部など人口構造物の内部を高精度に3次元可視化することを目的とした技術開発を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究開発方針を継続する。現在開発している厚型のガラス両面塗布型の高精度原子核乾板に加えて、異なる厚さのCOP(シクロオリフェンポリマー)基材を用いた原子核乾板の試験を進める事で、高い角度分解能の原子核乾板を用いた再構成技術の開発を進める。現在進めている遺跡調査(エジプトのクフ王のピラミッド、イタリアのナポリの地下遺跡、ホンジュラスのコパン遺跡)から得られた実データと対応するシミュレーションを融合した技術開発を進める。特に、観測現場で取得した3次元データを活用する事で高精度化を実現しつつ大面積検出器として機能するシステム開発を進める。さらに、既知の構造を対象とする事で測定データの精度実証および再構成手法の開発を行うことを目的として、名古屋大学の施設「NuBridge」(実際に使用されていた橋梁が移設された施設)における観測試験を検討している。
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