テラヘルツ光と呼ばれる周波数1THz付近には、特徴のある光源が少ない。最新の電子線形加速器は大強度のテラヘルツ光を発生できる可能性があり、また放射のメカニズム次第で特徴のあるテラヘルツ光を得ることもできる。最近、偏光特性の空間分布に特徴をもつ、ベクトルビームと呼ばれる光が注目されている。本研究では、電子ビームによる回折放射のメカニズムでテラヘルツ光を発生し、そのベクトルビームとしての特徴を示し、利用可能性を示すことを目的としている。 エネルギー回収型超伝導線形加速器の試験加速器である、コンパクトERLにおいて、高電荷電子ビームを時間方向に圧縮する、バンチ圧縮運転を確立した。得られた短バンチ電子ビームを穴あき金属標的に通過し、テラヘルツ帯域のコヒーレント回折放射を発生した。テラヘルツ放射を加速器の真空ダクトの外に取り出し、レンズ系で発散を調整するシステムを構築した。前年度までに制作していた、加速器室内から放射線遮蔽の外の実験室まで減衰無くテラヘルツ光を輸送できる真空輸送路を利用して、回折放射のテラヘルツ放射を輸送した。 輸送先の実験室でテラヘルツ放射を観測し、輸送路の調整手法を確立し、損失や分布を崩すこと無く輸送を達成した。その空間分布を測定し、回折放射の特徴的な穴あき分布を確認した。特に、空間分布測定に時間のかかる単一検出器のスキャン法だけでなく、テラヘルツ用の2次元イメージャを導入した画像の測定も行った。偏光の空間分布を確かめるため、偏光板を挿入し、分布の変化を測定した。これにより、計算どおりのラジアル偏光分布のテラヘルツ光が得られていることが確かめられた。また、電子ビームを穴あき標的に通過して放射を発生させる非破壊的な回折放射と、標的に衝突して発生させる破壊的な遷移放射を比較し、テラヘルツ領域では回折放射でもほぼ同等の強度が得られることを確認した。
|