本研究では、X線自由電子レーザーからの高強度X線による試料へのダメージを理論・実験の両面から明らかにし、高強度X線が必要とされる非線形分光でダメージを受けていない状態を調べる方法を研究するものである。最終年度である2020年度は、実験面では、昨年度測定した銅の共鳴2光子吸収過程について詳細な解析と第一原理計算との比較・検討を行った。その結果、これが単なる共鳴2光子吸収でなく、発光まで含めた一連のものとして解釈すべき過程であることを発見した。昨年度の測定データでは発光スペクトルに関して細かな議論ができないため、改良した装置を用いて再測定を行い発光スペクトルの励起光子エネルギー依存性を明らかにした。特に、励起光子エネルギーをある特定の条件に合わせることで、高強度励起でも本来の発光スペクトル、すなわち蛍光X線スペクトルが得られることが分かった。一方で、別の条件では、蛍光X線スペクトルには見られなかった新しいピークが現れることが判明した。この原因については今後のさらなる研究が必要である。理論面では、昨年度開発したHartree-Fockクラスター電子状態計算法を、周期系・有限温度・二成分系へと拡張した。この理論により、ダメージ等で高温に熱化した物質中における電子構造とイオン分布の双方を自己無撞着に決定できると期待される。今年度は、金属結晶を単純化した格子気体模型に対してこの方法論を適用し、さまざまな温度・密度に対する状態方程式の振舞いを調べた。
|