研究課題
本研究代表者らが開発した低速陽電子回折 (LEPD) 装置では,陽電子ビームの輝度増強システムにおけるリモデレータ (厚さ 150 nm の Ni 薄膜) が陽電子の主な消失点となっており,そこからの陽電子消滅γ線が,遅延線アノード検出器で回折パターンを観測するためのマイクロチュンネルプレート (MCP) におけるバックグラウンド発生の主因となり,データ取得の妨げとなっている。そこで,検出器の位置を輝度増強部から離してこのバックグラウンドを低減するために,従来との比較で全長を 2.5 倍長くした新方式の陽電子ビーム光学系(静電レンズ群)を開発した。これにより,リモデレータにおける陽電子消滅γ線によるバックグラウンドが 1/16 に低減される。新光学系の静電レンズには,10 個の電極に加え,8 極の静電偏向器が 2 セット組み込んである。このそれぞれの偏向器には,2 台のバイポーラ電源からの出力電圧を抵抗分割器を介して印加し,縦横2方向に独立に偏向がかけられるようにした。これら 14 台の電源を 3 つのグループに分け,3 台の絶縁トランスを用いてフローティング電源を構成した。この新光学系を,これまでに開発した十字の不感領域の無い 3 層式(六角型)遅延線アノード検出器 (HEX-DLD) と共に低速陽電子回折装置に組込み,低速陽電子ビームの輸送試験を行なった。実験を実施している高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 物質構造科学研究所(物構研)の低速陽電子実験施設 (SPF) において,本年度途中でビームラインのトラブルによりビームタイムの一部がキャンセルとなったが,新検出器に組み込んだ新光学系を用いて数10 eV から 300 eV の範囲で従来と同等以上の強度で低速陽電子ビームが輸送できることが確認できた。
3: やや遅れている
実験を実施している KEK 物構研 SPF におけるビームラインのトラブルによって一部のビームタイムがキャンセルになり,新開発の光学系と3層式遅延線アノード検出器を用いた十字の不感領域の無い LEPD パターンの観測に挑戦することができなかった。
新開発の光学系と3層式遅延線アノード検出器を用いた HEX-LEPD 装置による十字の不感領域の無い LEPD パターンの観測に挑戦する。また,得られたデータを用いて,LEPD 用の垂直入射・斜入射の I-V 解析の計算コードの検証と,LEPD パターンを用いた逆変換の検証を行なう。現在新型コロナウイルスによる感染症の影響で,本研究のための実験の実施が世界で唯一可能な KEK 物構研 SPF の運転が中止されているが,それが長期化してビームタイムが確保できなかった場合には,実験装置のデータ取得システムの高度化と,さらなる装置改良を進め,今後ビームタイムが確保できた場合の効率的な実験の実施に備える。
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Photon Factory Highlights
巻: 2018 ページ: 66-67