研究課題/領域番号 |
18H03477
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
平 義隆 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (60635803)
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研究分担者 |
神門 正城 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, グループリーダー(定常) (50343942)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ガンマ線渦 / 軌道角運動量 / トムソン散乱 / コンプトン散乱 / 光渦 |
研究実績の概要 |
本研究では、全く新しい量子ビームである軌道角運動量(Orbital angular momentum: OAM)を運ぶエネルギーsub-MeV以上のガンマ線を世界に先駆けて開発し、素粒子や原子核、物性研究への応用開拓を行うことを最終目標としている。OAMを運ぶガンマ線の発生には、研究代表者が世界で初めて見出した電子ビームと高強度円偏光レーザーの非線形逆コンプトン散乱法を用いる。研究期間内にはOAMを運ぶkeV領域のX線を非線形逆コンプトン散乱で発生し、OAMの起源であるらせん波面を光学的手法により測定する。 令和元年度は、OAMの起源であるらせん波面を光学的手法により測定するために開発した高空間分解能ガンマ線検出器の性能評価をSPring-8で行った。また、高強度レーザーを用いた非線形逆コンプトン散乱実験を関西光科学研究所で行った。電子銃用レーザーが不安定であったために電子ビームの位置と電荷量が不安定であり、明確なコンプトン散乱ガンマ線信号は計測することができなかった。 一方で、レーザーが楕円偏光の場合におけるガンマ線の位相構造を理論計算し、円偏光だけでなく楕円偏光においても位相構造をもつガンマ線の発生が可能であることが分かった。理論計算との比較を行うためUVSORにおいて楕円偏光アンジュレータ放射の位相差分布を測定し計算との比較を行った。この楕円偏光アンジュレータ放射の位相構造測定に関しては今後論文を学術雑誌に投稿する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
可視光領域においては、干渉法によってらせん波面の測定が一般的に行われている。本研究においても干渉法によってガンマ線のらせん波面を検出することを目指している。計算では数10マイクロメートルの空間分解能をもつガンマ線検出器が必要であることが分かり、それ満たすガンマ線検出器の設計製作を行った。SPring-8のビームラインBL29XUにおいてエネルギー99 keVのX線を用いて空間分解能の評価を行った。設計性能を満たすガンマ線検出器が開発できたと考えているが、詳しい解析は現在行っているところである。 一方で、関西光科学研究所において高強度レーザーを用いた非線形逆トムソン散乱実験を行った。電子ビームはエネルギー150 MeVのマイクロトロンを利用した。レーザーはJ-KARENを利用し、波長800 nm、パルスエネルギー0.8 J、パルス幅48 fs(FWHM)、集光ビームサイズ水平20マイクロメートル、垂直12マイクロメートル、繰返し1 Hzの条件で運転した。らせん波面を形成するガンマ線の発生には円偏光のレーザーを使用することが重要であるため、波長板を用いて直線偏光のレーザーを円偏光に変換した。実験時には、マイクロトロンの電子銃用レーザーが不安定であることが原因で電子ビームの位置と電荷量が不安定であった。そのため、ガンマ線検出用に設置している検出器の出力信号にバックグラウンドの制動放射ガンマ線が重畳されており、明確なコンプトン散乱ガンマ線信号は計測できなかった。 楕円偏光アンジュレータ放射の位相構造の測定では、2重スリットを用いてアンジュレータ放射の位相差分布を測定した。基本波と2次高調波の位相差分布の平均値は計算値と良く一致することが分かったが、3次高調波は測定値が計算値よりも低くなった。この原因は2つの位相特異点が分離することで位相差分布の平均値が計算値よりも低くなったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の主たる目標は、高次高調波ガンマ線のエネルギースペクトルを測定することと、らせん波面を形成する2次以上の高次高調波ガンマ線の空間分布が円環形状になることを確認することである。令和2年度後半に関西光科学研究所において非線形逆コンプトン散乱実験を引き続き行う。 実験前までに電子銃用レーザーのオシレータを交換し、電子ビームの安定化を図る。また、令和元年度の実験では電子ビームとレーザーのタイミング調整にストリークカメラを使用せず、光電子増倍管によりレーザー散乱光と電子ビーム起因のX線を計測して±数ns 程度に調整した。しかし、電子ビームが不安定の状況で広い範囲をタイミングスキャンしてガンマ線信号探索を行なったが、明確なガンマ線起因の信号を計測できなかった。次回実験ではタイミング調整にストリークカメラを使い、電子ビームとレーザーの調整範囲を絞ってタイミング調整を行う。電子ビームの横方向サイズを小さくするための電子ビーム収束用電磁石の納品は令和元年度中に完了したので、令和2年度中に製作を行う。
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