研究課題/領域番号 |
18H03481
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久保 光徳 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (60214996)
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研究分担者 |
寺内 文雄 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (30261887)
植田 憲 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (40344965)
桃井 宏和 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (50510153)
田内 隆利 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70236173)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歴史的人工物 / 社寺建築装飾 / 宮彫り / 民具 / 3Dモデル / 三次元形状測定 |
研究実績の概要 |
2018年度に扱った歴史的人工物として,社寺建築装飾である「宮彫り」2点と縄文時代の農具および昭和初期および現代まで使用されている「民具」3点を中心的な研究対象とし,これら人工物の三次元形態測定と形態分析,および分析から得られる知見を検証するためのモデルの作成および造形教材としての開発の可能性を探った。 「宮彫り」については,江戸時代後期に千葉県房総地区を中心に活躍した武志伊八郎信由(伊八)と後藤利兵衛橘義光(義光)のそれぞれの代表作とされる千葉県鴨川市の大山寺不動尊向拝蟇股「波」と同県館山市の鶴谷八幡宮向拝天井中央「龍」それぞれの彫り物への形態分析を実施し,それらの造形原理を言語化するとともに,その原理に従って再現した両者の造形モデルを作成し展示し,地域に潜在化する傾向にある地域の文化遺産の掘り起こしと活性化に向けての可能性を探った。 「民具」については,まず縄文時代の遺跡である梶原遺跡から発掘された「犂」に関する丹波市教育委員会が保管する実測図から立体モデルに起こし,「あいちの考古学」での研究発表を行い,この3Dモデル化の可能性を公知することに成功した。また,群馬県中之条町歴史と民俗の博物館「ミュゼ」に展示されている特異な形態を示す木摺臼を見出し,福島県立博物館に所蔵されている大型の木摺臼との対比において,その形態の意味,合理性,造形における工夫・アイデアの解明を試みた。この成果は,福井県氷見で開催された日本民具学会の研究大会で発表し,民具研究における新しい切り口を提案することとなった。もう一つの民具としては,千葉県匝瑳市木積地区に伝えられる国指定無形重要文化財の「木積の藤箕」に対する制作時のつくり手の動態解析とそこから得られる知見を効果的に技術の伝承システムに昇華させることで,効果的な技術伝承の可能性を示唆するものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では「箕」を中心に民具研究を進め,その結果としての完成度の高い造形教材もしくは現代の道具を提案する計画であったが,「箕」に関する千葉大学での公開講座や東京文化財研究所(東文研)での研究打ち合わせにおいて,他形態の民具への形態解析の依頼も入り,同時に複数の歴史的人工物形態に対する形状測定と形態分析を行うこととなり,上述の「研究実績概要」に見られるような一見雑多な研究を実施しているような状況となっている。しかしながら,「民具」に感しては東文研をはじめとして民具学会を介しての研究者ネットワークを確実に広げつつあり,より効果的で実質的な民具形態収集と形態分析による人工物の造形における工夫・アイデア,つまり造形知の収集も期待できる基盤が構築されつつある。また,籾摺臼に感しては海外の事例にふれる機会も得,国内外の同目的の道具の対比の可能性も探った。さらに「箕」に関しては,今年度中に後世に伝えるべきとされる代表的な「箕の形」の本格測定と,それらの「箕」の一般公開とそこにある造形知の公知に具体的に着手し始める基盤ができている。 「宮彫り」については,これまでの形態観察,分析,数理モデル化を通して,研究対象としている彫り物の造形傾向もしくは造形原理の言語化への試みを積極的に試行しているが,研究対象の形態の複雑さのため,一般性の高い結論を得るまでには至っていない。しかしながら,宮彫りの研究者であると同時に彫師である共同研究者との良好な関係も構築できており,同研究者もこちらとの共同研究の状況において「2018年度 Terumo Arts&Crafts 助成金」を「宮彫り」の研究において獲得している。2018年度は,試みに,2つの宮彫りの造形原理を表現する単純化された造形モデルも制作し,展示することで,「宮彫り」に見る基本的な造形原理への興味の誘導と理解の可能性を探ることに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には現在の方向性で,さらに研究対象とする人工物の種類を増やし,人工物そのものの造形原理の言語化と,その形態の作り手,使い手との関係への考察も実証をもって進めていく予定である。さらには,この研究を進めていく中で明確になっていく,これらの人工物に関わる人の工夫・アイデアを抽出するとともに単純化し,もともとのシステム(形あるものとして具現化された機能,存在)の形態の影響に拘束されない,モジュール化された知的造形ツールとして再構築するとともに,そのツールを用いたデザイン提案を具体的に実施できるように研究環境を改善する予定である。そして,提案物をまずはデザイン造形教育の現場に活かし,本研究の妥当性の検証と方向性の見直しを継続して実施する予定である。
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