本研究では認知症高齢者の逆行性喪失による言動・行動やBPSDにも配慮した居住環境の検討として、逆行性喪失の入居者には言動や行動を“肯定”するため、過去の経験を擬似体験できる場を、BPSDのある入居者には一定の領域性を確保したカームダウンの場を導入した『逆行性喪失行動およびBPSDの緩和を誘発する居住環境デザイン手法』を構築する。そして導入前後の認知症高齢者への効果を、生体センサーから得たストレス度の変化により検証することで、高齢者生活環境改善の実現に向けた基礎的知見を得ることを目的としている。 当初令和2年度では令和1年度に実施した「カームダウン空間」検証実験で得た結果と、データ取得方法の一部見直しを反映した「経験擬似体験空間」検証実験を予定していたが、令和2年度以降、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、調査対象施設である特別養護老人ホームの立ち入りが禁止されたため、「経験擬似体験空間」検証実験は実施できなかった。そこで調査対象施設の介護職員を対象に、令和1年度に実施した「カームダウン空間」の効果についてアンケート調査を実施した。 検証実験とアンケート調査の結果、総じて「カームダウン空間(以下、ユニット)」の導入は認知症高齢者の発話や散歩のきっかけになったことで一応の効果はあったと言える。また多くの施設職員が「入居者との話題」や「入居者への散歩の促し」のきっかけとしての効果を実感している。そのためユニットの設置場所は施設職員と入居者による“移動行為”が発生する共用エリアが効果的であるが確認できた。 本研究の成果物はガイドラインの作成であることから、「経験擬似体験空間」検証実験結果を国内外調査で得た知見に置き換え、「カームダウン空間」検証実験で得た結果と併せて、「心を癒やす環境デザイン -デンマーク・オランダの高齢者居住環境に学ぶ-」を執筆し、令和4年4月に彰国社より発刊した。
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