研究課題/領域番号 |
18H03501
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
本田 秀仁 安田女子大学, 心理学部, 講師 (60452017)
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研究分担者 |
植田 一博 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60262101)
松香 敏彦 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (30466693)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 意思決定 / 合理性 / コミュニケーション / 集団意思決定 |
研究実績の概要 |
2018年度は,行動実験ならびに計算機シミュレーションを実施して,以下に記す点を明らかにした. (1)話者が量的情報を伝達する際の言語表現の選択(例:500ml中,250mlの水が入っているグラスを「半分一杯」と表現するか「半分空」と表現するかの選択)に影響を与えるとされる参照点(例:元々,グラス内に入っていた水の量)を明示的に提示する場合と,プライミングパラダイムで提示する場合の,参照点の影響とその効果に気がついているかについて検討したところ,いずれの場合も参照点の効果が観察されたが,プラミングパラダイムで提示した場合は,その効果は顕在レベルでは気がつかれていないことを行動実験で示した. (2)言語的に確率が伝達された場合(例「わずかな見込みがある」),言語情報のみ提示された場合と伝達者の表情とともに言語情報を伝達した場合では,表情の影響により,言語情報に対する解釈が変化する言語情報と,表情の影響を受けにくい言語情報が存在することを行動実験で示した. (3)多数のメンバーからなる集団で意思決定を行う際,個々のメンバーが多様な推論ストラテジーを用いる場合,またメンバー間の記憶の類似性が低い場合,集団意思決定のパフォーマンスが上がることを計算機シミュレーションによって示した.つまり,集団意思決定において,個々のメンバーの推論ストラテジーに多様性が生まれる場合, 集団意思決定のパフォーマンスが改善することが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は,(1)言語表現の違いが合理的意思決定に与える影響,ならびに(2)非言語情報が合理的意思決定に与える影響について検討することが当初の目標であった. (1)については,合理的意思決定に影響を与えるとされる参照点について,コミュニケーション場面において,情報伝達者―聞き手間でどのような伝達がなされているかについて,情報伝達者に焦点をあてて分析し,情報伝達者の心理・認知プロセスに関する知見が得られ,国際誌にその成果を発表した.(2)については,表情によって伝達された言語情報に解釈の違いが出ることを行動実験によって明らかにすることができた.この知見は本年度から実施予定である非言語情報が意思決定の合理性に与える影響について検討していく上での重要な予備的な知見であり,一定の成果が得られたと言える.また,当初予定していなかった課題であるが,また,集団のメンバーが用いる推論ストラテジーが集団意思決定のパフォーマンスに与える影響について,国際誌1編,また査読付国際会議論文に1編を発表し,当初の予想以上の成果が得られた. 以上,当初の予定していた課題については順調に成果が得られ,また当初予定していなかった課題についても成果が得られている.このことから,本課題は,順調に進展していると考えらえる.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,(1)言語表現の違いが合理的意思決定に与える影響に関する理論的分析,(2)非言語情報が合理的意思決定に与える影響の行動実験に基づく実証的検証,この2点に特に進めていく. (1)については,基本的に計算機シミュレーションを中心として分析を進めていく.特に,2018年度に得られた知見に基づいて,情報伝達者や情報の聞き手である意思決定者の認知モデルをより精緻化し,合理的意思決定に与える認知的要因,ならびに環境要因などを理論的な視点から分析を進めていく. (2)については,2018年度に得られた表情の違いによって生まれる言語情報へ対する解釈の違いに関する知見に基づいて,表情が意思決定に与える影響について行動実験を中心として検証する.特に,表情が存在する場合としない場合で,決定行動にどのような違いが生まれるのか,またそれが意思決定の合理性とどのような関係があるのかについて検証を行う.さらに,意思決定の認知プロセスを詳細に分析していくために,決定を行うまでのプロセスのモニタにング(例:意思決定に関わる情報を提示する際に,実験参加者はどのような順番で確認するのか,またどのくらい注目しているのか)することで,意思決定の認知プロセスを詳細に分析することも目標とする.
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