研究課題/領域番号 |
18H03504
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
喜多 伸一 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10224940)
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研究分担者 |
石川 准 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (60192481)
渡辺 哲也 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10342958)
亀田 能成 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (70283637)
大石 華法 日本福祉大学, 福祉社会開発研究所, 客員研究所員 (40823969)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 感覚・知覚 / 視覚障害 / バーチャルリアリティ / 歩行 |
研究実績の概要 |
視覚障害者は,残存視覚や他の感覚系で外界を知覚し、現在地、目的地、その間の経路に関する地理的な知識を活用して街なかを歩く。これに対し本研究は、外界知覚と地理知識がいかに統合されるについて、バーチャルリアリティ(VR)を用いて解析することを目的としている。 平成30年度は、視覚障害者のうち多数を占める弱視者が、歩行中に周囲がどのくらい見えているかについて、神戸大学が保有する没入型VRシステムを用いて、計測システムを構築した。弱視者にとって、周囲の見え方のうち最も重要なものは、足元の見え方であることから、まず床面の見え方の計測を研究対象とした。本研究で用いたVRシステムは最大辺が7.8メートルあり、10歩ていどの歩行が可能である。この利点を生かし、歩行者の頭部の3次元座標を赤外線カメラにより計測し、歩行中の足元に図形を投影するシステムを、まず構築した。さらにこの計測システムを用いて、歩行者の足元の見え方を心理物理学的に計測する手続きを構成した。 この計測システムの有効性を検証するため、平成30年度は、まず晴眼者(健常者)を用いた計測実験を行って動作を確認し。その後、弱視者を対象とした実験に展開した。そのため網膜色素変性症による求心性視野狭窄の症状を有する弱視者に対し、歩行中の足元に文字、幾何学図形、光点を提示する実験を行い、実験手続きについて検討した。 視覚障害者は一般に足元が見えづらく歩行による移動が困難になっているが、歩行時の足元知覚を計測する方法はこれまで提案されていない。これに対し本研究は、VRシステムを用いて地面に視野計を作り,弱視者が歩くときの足元知覚を計測するところに新規性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
街なかを歩くとき,人は視覚や聴覚で外界を知覚すると同時に、保有している地理知識に基づいて現在地と目的地との関係を理解し、適切な経路を算出して行動計画を立てる。このような外界知覚と地理知識の相互関係は、晴眼者では自動化されており、自覚されることもなく円滑に処理される。しかし外界知覚が不十分な視覚障害者においては、相互関係の処理は滞りがちである。視覚障害者は一般に、感覚を通じて外界を知覚するが、そのときに獲得できる情報は乏しく、現在地を的確に把握し最適な経路を算出することが困難になり,移動のための行動計画は立てられなくなってしまう。このことは残存視覚を保有する弱視者においても、生活上で大きな問題となる。 これに対し平成30年度の本研究では,VRを用いて弱視者の足元知覚を計測するシステムを構成した。視覚障害者が街なかを歩いて移動するときには、歩行時に足元が見えづらいことが問題になり、駅のホームからの転落事故では死亡事故に至る事例も多数発生している。しかしながら歩行時の足元知覚を計測する方法はこれまで提案されていない。本研究は,安全安心のために重要であるにもかかわらず,定量的な研究が行われてこなかった足元知覚について、新規なシステムを用いて計測する手法を構成した。 この研究は当該分野で注目されており、研究代表者の喜多は、平成30年度では、6月に医学系の学会である日本ロービジョン学会の大会で招待講演を行い、また9月に福祉系の組織である視覚障害リハビリテーション協会の研究総会でやはり招待講演を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度と32年度は、30年度に構築した計測システムを用いて、対象となる弱視者の症状を、網膜色素変性症から他の症状に拡張する。網膜色素変性症は、網膜視細胞のうち桿体の変性が初期症状であることから、周辺視野の劣化による求心性視野狭窄が主症状となる。これに対し、緑内障や網膜剥離などの他の視覚障害では、視野狭窄は求心性のものとは限らず、症状に多様性がある。それゆえこのような多様な症状に現在の計測システムを対応させる必要がある。 本研究が開発している計測システムと、現在の眼科検査室で行われている、標準的な視野系との関係も検討する必要がある。眼科では、ゴールドマン視野計、ハンフリー視野計、オクトパス視野計など多種の視野計が用いられている。これらの視野計は、座位の被験者に対し、頭部を固定して計測を行うものである。これに対し本研究の視野計測は、歩行中の被験者に対して視野を計測しており、計測状況が大幅に異なる。平成30年度は、この差異について眼科医の方々と討議し、計測システムの可搬化を計画している。 また本研究が用いている没入型VRシステムは、老朽化が進んでおり、そのためにもシステムの改変は不可避となっており、今後の研究期間で大きな問題となっている。
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