研究課題/領域番号 |
18H03510
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 希美子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (00323618)
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研究分担者 |
安藤 譲二 獨協医科大学, 医学部, 特任教授 (20159528)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / Shear stress / 形質膜 / リン脂質 / コレステロール |
研究実績の概要 |
血管内皮細胞の働きは血流に起因するshear stressにより調節されているが、内皮細胞がshear stressをセンシングするしくみは不明である。本研究では、リン脂質2重膜である形質膜自体がメカノセンサーになり得るという新しい視点から、力学刺激で起こる形質膜の物理的性質(脂質相や流動性)の変化や膜脂質分子(コレステロールやリン脂質)の動態を捉え、それらがイオンチャネル、受容体などの膜蛋白を介するシグナリング、引いては内皮細胞の機能変化に繋がるカスケードを明らかにすることが本課題の趣旨である。本年度は、「力学刺激下の膜コレステロールと膜リン脂質の動態解析」についての課題を中心に実験を行い、以下の結果を得た。 培養ヒト肺動脈内皮細胞(HPAECs)に流れ負荷装置でshear stressを負荷した時の細胞膜コレステロールをライブイメージングしてそのリアルタイムでの動態を観察した。コレステロールに特異的に結合する性質のあるPerfringolysin O (θ毒素)のドメイン4(D4)に、緑色蛍光蛋白質(EGFP)との融合遺伝子(EGFP-D4)を作製して、大腸菌内でEGFP-D4蛋白質を生合成させ、これを精製して細胞形質膜の外葉に作用させ、超解像顕微鏡による定性的な解析と、フローサイトメトリーを用いた定量的な解析を行い、shear stressが形質膜のコレステロールに及ぼす影響を解析した。形質膜のコレステロール量はshear stressの大きさと作用する時間依存的に減少した。特に、細胞膜脂質ミクロドメインであるカベオラ部分のコレステロールの減少率が顕著であった。以上の結果は、昨年度の研究で明らかにしたshear stressに伴う膜流動性と膜脂質の配向性(lipid order)の変化が膜コレステロールの減少に基づいている事を支持する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的を達成するために、期間全体として以下の3項目の研究を計画している。 1)力学刺激が惹起する細胞形質膜とモデル膜の物性変化 2)力学刺激下の膜コレステロールと膜リン脂質の動態解析 3)膜脂質分子を介したメカノトランスダクションと細胞応答 本年度は1)力学刺激が惹起する細胞形質膜とモデル膜の物性変化と、2)力学刺激下の膜コレステロールと膜リン脂質の動態解析の項目を明らかにすることができたことに加え、3)の項目についての予備的な検討を終了することができた為。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、研究目的と計画に沿って、以下の項目の検討を推進する。 2)力学刺激下の膜コレステロールと膜リン脂質の動態解析 3)膜脂質分子を介したメカノトランスダクションと細胞応答 特に、2020年度には、力学刺激で起こる膜脂質分子の分布や種類、量の変化を解析する。具体的には、形質膜の内葉のコレステロールを標識する方法として、赤色蛍光蛋白質mCherryとD4とを融合させた遺伝子配列のアデノウイルスベクターを作製して、内皮細胞に感染させる。Shear stressやstretchによる変化と同時に、細胞膜のコレステロール量を変化させたときの動態を定性、定量的に解析する。併せて、コレステロール集積蛋白であるストマチンの細胞内挙動を解析する。膜リン脂質の動態については特異的な蛍光プローブを用いたライブイメージングと高感度な定性・定量分析が可能な高速液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)による解析を行う。更に、shear stress誘発性の細胞内のカルシウムシグナリングやNO産生における細胞膜コレステロールの役割をライブイメージング法により解析することで、膜脂質分子の動態が形質膜の物性変化や膜蛋白を介したメカノトランスダクションに果たす役割を明らかにする。
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