血管内皮細胞の働きは血流に起因するshear stressにより調節されるが、内皮細胞がshear stressをセンシングする仕組みは不明である。これまでメカノセンシングの研究は主に、タンパク質分子に焦点が当てられてきたが、様々な分子が同時多発的に活性化する機構は明らかではなかった。本研究では、リン脂質2重膜である形質膜自体がメカノセンサーになり得るという新しい視点から、力学刺激で起こる形質膜の物理的性質の変化や膜脂質分子の動態を捉え、それらが細胞内シグナリングや内皮細胞の機能変化に繋がるカスケードを明らかにすることが本課題の趣旨である。本年度は、「膜脂質分子を介したメカノトランスダクションと細胞応答」についての課題を中心に実験を行い、以下の結果を得た。 コレステロールと結合する性質を持つ Perfringolysin O毒素のドメイン4(D4)を蛍光蛋白質と融合させた蛍光プローブ(EGFP-D4)の精製蛋白質で細胞二分子膜の外側(外葉)のコレステロールを、mCherry-D4遺伝子を細胞内に導入して発現した蛋白質で二分子膜の内側(内葉)のコレステロールを標識した、培養ヒト肺動脈内皮細胞に流れ負荷装置でshear stressを負荷すると、コレステロール量が形質膜から有意に減少すると同時に、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が活性化され、ATPが産生した。形質膜にコレステロールを負荷すると、その濃度に比例して、shear stress誘発性のATP産生が減少した。一方、methyl-β-cyclodextrin(MβCD)で細胞形質膜のコレステロールを減少させると、ミトコンドリアでATPが産生し、ATP産生量は膜コレステロール量に反比例していた。以上の結果から、膜コレステロールがshear stressの細胞応答に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
|