研究実績の概要 |
乳癌を切除した後、術後の生活の質を高めるために、組織移植によって乳房を再建する例が増えている。移植された組織では、 術後一週間にわたり血栓が生じるリスクが高くなるため、血流障害を即時検出する機器が求められている。本研究では、生体の曲面に貼り付けられるフィルム状イメージャーを試作し,体の表面に貼り付けて血流状態を観察できることを示すことを目的としている。 1.センサデバイスの開発 歩留まり等の点で優れている無機半導体のセンサを用いて,フレキシブルイメージャーを試作した.ポリイミド基板に,LEDとフォトトランジスタをリニアアレイ状に実装して,イメージャーを構成した.また,防水性と生体適合性を確保するため,センサ表面にパリレンをコートした.駆動回路は、持ち運び可能な程度まで小型化されている。センサや回路に故障や誤動作が生じた際に安全性が損なわれないよう,電流制限回路なども実装されている.また,駆動回路をBluetoothによってタブレット端末へ接続し,測定された信号の記録や解析をできるようにした.さらに,測定された信号をもとに,貼付部位に血流障害が生じた可能性を判定するアルゴリズムの開発も行った.受光素子の信号から脈波の振幅を評価し,それが閾値を下回っている場合に,血流障害の可能性を知らせるアルゴリズムとなっている. 2.健常者を対象とした脈拍のマッピング 上記のデバイスの性能を評価するために,健常者に擬似的に血流障害を起こした際の脈拍をマッピングした。健常者の手背にデバイスを貼付し、拍動に伴う生体組織内の後方散乱光の光量の変化を検出した。そして静脈及び動脈を止血帯で止血または圧迫することにより、擬似的に鬱血、虚血を再現した。また,1週間の連続装着を行い,装着者の体動が信号に与える影響や,通信状況の影響によるデータ欠損の有無などを評価した.
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今後の研究の推進方策 |
1.センサデバイスの開発 有機発光ダイオード(OLED)と有機フォトダイオード(OPD)を用いて,血流に由来する信号を取得する素子を試作する.まずガラス基板に,OLEDとOPDをリニアアレイ状に実装して,素子を構成する.試作したイメージャーについて,感度,暗電流,ノイズ等の評価を実施する。さらに,測定された信号をもとに,貼付部位に血流障害が生じている可能性を判定するアルゴリズムの開発も行う.深層学習の原理を用いて、心拍に同期した周期的な信号と、より時間的に緩やかな変動について、それぞれを判断するブロックと、それらをもとに総合的に判定する処理を組み合わせる。 2.ヒトを対象とした脈拍のマッピング 上記の有機デバイスの性能を評価するために,健常者に擬似的に血流障害を起こした際の脈拍をマッピングする。健常者の手背にデバイスを貼付して、拍動に伴う生体組織内の後方散乱光の光量の変化を、OPDによって検出する。そして静脈及び動脈を止血帯で止血または圧迫することにより、擬似的に鬱血、虚血を再現する。
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