研究課題/領域番号 |
18H03512
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
八木 透 東京工業大学, 工学院, 准教授 (90291096)
|
研究分担者 |
宮本 義孝 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, 研究員 (20425705)
榛葉 健太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80792655)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 神経インタフェース / 脂質二重膜 / カーボンナノチューブ / ジャイアントリポソーム / ゲルボール |
研究実績の概要 |
提案する神経インタフェースデバイスは,人工細胞膜と膜タンパク質から構成される人工のギャップジャンクションを用いて細胞内刺激を実現するものである.膜の安定化の目的でボール形状のゲル物質周りに脂質二重膜を構成し、ギャップ結合を実現するために膜タンパク質など膜を貫通するナノ構造物を介して物質輸送を行う要素技術の開発を行う必要がある. 本年度は,1)リポソーム内にアガロースゲルを封入する技術の開発,2)アルギン酸カルシウムゲルへの脂質二重膜コーティング,3)パッチクランプ法を用いた電気的特性実験系の立ち上げ,4)カーボンナノチューブ(CNT)のリポソームへの挿入,について実施した.1)では,静置水和法によりリポソーム中にアガロースゲルを封入したジャイアントリポソームを作製した.このジャイアントリポソームに陰圧を負荷したところ、より変形しにくいことが判明した.2)では,カルシウムイオンが添加されるとアルギン酸はゲル化する性質を利用した方法である。電気化学反応を利用することで局所的にカルシウムイオンを生成し,電極先端部に球状のゲルを作製した.次に,界面通過法により電極先端部に接着したゲルへの脂質二重膜コーティングを行ったところ,ゲルの周囲に脂質が集まっていることが確認できた.3)では,実験室の外来雑音を調査した後,ファラデーケージを設置し,リポソームのインピーダンスならびにキャパシタンスを比較的良好なSN比で計測できるよう実験系を整備した.4)では,CNTの電気的特性を調査するために,液滴接触法によって形成した人工細胞膜にCNTを挿入し,単一のCNTの導電率を計測した.その結果,先行研究で計測された導電率に近い値が測定できたことから,作製したCNTの加工方法は適切であることが判明した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の成果は,ゲルの作成方法ならびに電気特性の評価方法を確立する上で重要である.静置水和法は他の手法に比べて手順が簡単で,ジャイアントリポソームへのアガロースゲル封入も容易である.蛍光プローブにより内部にゲルを含むジャイアントリポソームを簡単に作製でき,陰圧を負荷する機械強度実験では,ゲルを内包したジャイアントリポソームは,そうでない通常のジャイアントリポソームよりも変形しにくく,より大きい陰圧に対して膜を維持することが判明した.また,内包するゲル濃度が高くなるにつれ,負荷可能な最大陰圧も大きくなることが分かった.一方,アルギン酸を用いたゲル形成では,白金線を用いたガラス被膜電極の先端部に直径200 μmほどの球状のゲルを作製することができた.ゲル作製時に電圧の印加時間を変えることでゲルのサイズの制御が可能であることも示された.そして,液滴接触法を利用して先程作製したアルギン酸ゲルに脂質二重膜の形成を試みたところ,ゲルの半球ほどの部分に対して脂質二重膜を形成できたことが蛍光観察により明らかになり,電気計測による界面に形成された膜の静電容量の計測からも脂質二重膜の形成を定量的に確認することができた.
|
今後の研究の推進方策 |
今後もおおむね当初の計画通りに研究を進める.本年度に立ち上げた電気特性の評価実験系を使って,ゲルを内包したジャイアントリポソームに対し,パッチクランプ法におけるギガシールが形成されるかどうかを試験的に実験したところ,陰圧を負荷してガラス管電極とジャイアントリポソーム同士を強く引き付けることで,電流値が数pAオーダーの状態を実現することができた.一方で,ギガシール状態を長時間にわたって保つことが難しかった.そこで電極先端部をフォージするなどして改良を重ね,電気特性評価によって作製したジャイアントリポソームならびに挿入したナノ構造体の特性を評価する.またCNTを導入したリポソームの電気的特性についてもパッチクランプ法を適用し,カルシウムイオンの透過率を電気的な信号として評価する実験を行う.
|