研究課題/領域番号 |
18H03514
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
田中 志信 金沢大学, フロンティア工学系, 教授 (40242218)
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研究分担者 |
小川 充洋 帝京大学, 理工学部, 准教授 (30322085)
五十嵐 朗 藍野大学, 医療保健学部, 教授 (10570632)
野川 雅道 公立小松大学, 保健医療学部, 准教授 (40292445)
畑中 由佳 藍野大学, 医療保健学部, 助教 (30622120)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 近赤外分光法 / 血液透析 / 適正透析 / 透析液廃液成分モニタ / 近赤外多波長LED |
研究実績の概要 |
昨年度は透析液廃液成分の光学的モニタリングに関する基礎的検討として、FT-IR装置(波長域:700~2,500nm)により尿素(Ur)、尿酸(Ua)及びクレアチニン(Cr)の単一成分低濃度水溶液のスペクトル計測を行い、PLS回帰分析により濃度推定の可能性を検証した。その結果、Urについては光路長:0.05mm, 0.15mm, 0.25mmのセルを用いた場合、実測濃度と予測濃度との相関係数:γ>0.8と良好な結果が得られたが、Ua、Crについてはいずれの光路長においてもγ<0.5となり良好な能動推定精度が得られなかった。 そこで今年度は、濃度感度性のない波長データを排除すると共に、市販の近赤外LEDで入手可能な10種類の波長の差分吸光度データを用いて「総当たり解析」を行い、上記3成分の濃度予測のための至適波長数とその組み合わせについて検討した。なお予測精度の評価指標には上述の相関係数:γに加えて,実測濃度と予測濃度の標準予測誤差(SEP, Standard Error of Prediction)を用いることとした。また各成分の濃度範囲は昨年度と同じく(透析廃液における各成分の濃度範囲を考慮して)Ur:10~70mg/dl、Ua:0.7~2.0mg/dl、Cr:1.0~4.0mg/dlとした。 その結果、光路長:0.5mm, 0.25mmおよび0.15mmのセルを用いた場合には、3成分全てにおいてγ>0.900となり、SEP[mg/dl]の最小値はUr: 2.1、Ua:0.05、Cr:0.05といずれも最大濃度の3%以下で、極めて良好な濃度推定精度が得られた。なおその際の波長数はそれぞれUr:4波長、Ua:6波長、Cr:6波長といずれも一桁で、近赤外LEDを光源とした簡易光学式透析廃液成分モニタシステムの具現性を確認した(各成分における波長組合せについては現状非開示)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「実績概要」に示した通り、透析廃液中の3成分(尿素、尿酸、クレアチニン)の高精度濃度推定の基礎実験については順調に進んでいるが、この先に予定している「光源のLED化」の進捗に若干の困難が生じている。 具体的には、これまでにもマルチチップ型近赤外多波長LEDの特注試作を依頼してきたロシアの企業が、LED出力の安定化に必要不可欠となる「サーモコントロールモジュール(TCM)」の製造を突然中止してしまい、今後入手の目途が立っていない。他のメーカ(国産を含む)の代替品を現在調査中だが、LED自体が特注仕様のため代替の可能性は極めて低いと予想せざるを得ない。 ついては、TCM込みで多波長近赤外LEDの特注試作を請負ってくれるメーカーを早急に探し出すと共に、その代替法として近年超小型モジュール化の進歩が著しいファブリペロー型分光器の使用を視野に、今後研究計画を再検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.FT-IR分光器を用いた3成分混合水溶液の濃度推定精度の検証実験:前年度までは尿素(Ur)、尿酸(Ua)、クレアチニン(Cr)の単一水溶液における濃度推定精度を検討してきたが、実際の透析液廃液では各成分が混合された状態で各々の濃度が時々刻々変化していく。そこで上記3成分の様々な濃度の混合溶液を用いて、主ターゲット成分であるUrの濃度推定におけるUaおよびCrの影響を検討し、妨害物質であるUaやCrの影響を受けにくいUr濃度推定用の波長数とその組み合わせに関する知見を得る。また実際の透析液を溶媒に用いて同様の実験を行い、透析液に含まれる無機成分等の影響についても併せて検討する。 2.LEDの発光強度プロファイルを考慮した測定精度検討:上記検討で用いたFT-IRのスペクトルデータは波長間隔が約1.7nmで波長幅が極めて狭く、入射光強度のプロファイルは非常に急峻である。一方、今後光源に用いる予定のLEDの発光強度プロファイルはこれに比べるとかなりブロードで、一般的には数十~100nm程度の半値幅を持つとされている。従って上記「1」でFT-IRのデータを使って得た結果がそのままLED光源に当てはまるとは限らない。そこで上記結果がLEDを光源に使った場合でも当てはまるのかどうかを次のような方法で検証する。すなわちFT-IRで得た透過光強度スペクトルに、中心波長の重みを1、半値幅を50~100nmとした重み関数(例えばガウス関数)を乗じることでLEDを模擬したスペクトルを得る。そして上記「1」で決定した組合せ波長それぞれに対してこの値を算出し、重回帰分析により濃度予測精度を検証する。なおこの検証結果は「現在までの進捗状況」の欄で言及した「ファブリペロー型分光器」を受光器に用いた場合にも適用可能であり、有用かつ必要不可欠の検討事項である。
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