本研究では、神経伝達物質のひとつであるドパミンを非侵襲的に観測しさらに画像化するドパミンイメージングの実現を目指し、低濃度分子の磁気共鳴撮影(MRI)に利用可能な化学交換飽和移動法(CEST)を利用したMRI撮影技術の開発を行っている。CEST MRIは、観察対象の分子とその周囲の水分子との間で生じる交換性プロトンの化学交換現象を利用し、水分子由来のMRI信号強度の変化から対象分子の存在を間接的に捉えるが、ドパミン量の低下あるいは増加が想定されるドパミン関連疾患への適用を念頭におく本研究では、単に対象分子の空間分布を示す定性的な画像の取得だけではなく、その濃度や交換速度の評価が可能な定量画像の取得が重要である。また、CEST MRIは一般的なMRI撮影と比べて撮影時間が長いことから、定量画像の取得にはさらに撮影時間が長期化するため、生体におけるドパミン計測の実現および対象分子の経時変化の観測にはCEST MRI撮影の高速化が必要である。本年度は、ドパミンの定量手法、CEST MRIの高速化、短時間での撮影画像からの定量画像生成手法、の各研究項目について、計算機シミュレーション及び水溶液ファントムによる実測データを用いた検討を中心に進め、各手法の洗練と新たな手法の提案を行った。その結果、CEST MRIによるドパミンの定量評価を可能とする解析手法を提案し、定量の精度および生体環境における実現可能性に関する知見を得た。また、独自に開発してきたCEST MRIの高速撮影手法について、撮影に関連するパラメタ設定がCEST信号に与える影響を詳細に調べ、CEST信号の検出感度の向上につながる知見を得た。さらに、短時間の計測から定量画像を生成するための手法について、特に定量精度の向上を志向した新たな手法を提案した。
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