研究課題/領域番号 |
18H03519
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
笹川 清隆 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (50392725)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イメージセンサ / 蛍光観察 / 蛍光フィルタ / 脳機能計測 / 生体埋植デバイス |
研究実績の概要 |
本研究は、生体埋植可能な刺入型イメージングデバイスにおいて高い蛍光検出感度と数μm程度のマウス脳などの生体深部において神経活動等を明瞭に観察可能とすることを目的としている。これに対し、本年度は、励起光の放射スペクトルの改善、および、励起光除去フィルタの性能向上を試みた。 生体埋植を目的とする微小なデバイス上に統合可能な光源としては、LEDあるいは光ファイバが挙げられる。光ファイバは、レーザー光を導入することが可能であるため、高い波長純度を容易に実現することができる。また、イメージセンサの撮像面に対して平行に配置することが可能である。本年度は、光ファイバを用いたデバイスを試作した。 刺入型のイメージセンサは、生体に対する侵襲性を低減するため、レンズを用いない構成をとっている。レンズレス系では、様々な方向から光が入射することが想定されるため、観察励起光除去フィルタとしては、透過スペクトルに入射角依存性の少ない吸収フィルタが用いられる。しかし、吸収色素は波長分離性が高くない、あるいは、自家蛍光を発するという課題点がある。これに対し、我々の研究グループでは、干渉フィルタと吸収フィルタを組み合わせたハイブリッドフィルタを開発した。当初のハイブリッドフィルタは、干渉フィルタを光ファイババンドルの板であるファイバオプティックプレート上に形成しており、素子厚が厚く刺入型のセンサへの適用ができないものであった。これに対し、紫外レーザーを用いたフィルタ層と基板の剥離・転写技術を開発し、刺入型センサへの搭載を実現した。 これらの手法を用い、緑色蛍光タンパクを発現したマウス脳スライスの観察を行い、蛍光観察性能を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の計画通り、刺入型のイメージセンサへ搭載可能な光源およびフィルタの改善を行った。LEDを励起光源とした場合、光源のスペクトルが広く、例えば緑色蛍光タンパクを励起する場合、LEDからの緑色成分が観察対象の蛍光よりも強くなる場合がある。これに対し、光ファイバを用いた光源システムでは、発光スペクトルの狭いレーザー光源が使えるほか、不要な自発放射成分をフィルタで除去する構成も容易に取ることができる。しかし、光ファイバは、マウスの自由行動実験を想定した場合には、線の硬さや強度が問題になることが予想される。そのため、現在LEDを用いた狭線幅光源にも着手している。 励起光除去フィルタについては、UVレーザーを用いた剥離および転写手法によって、イメージセンサ上に吸収フィルタと干渉フィルタを積層することに成功している。この構成を取ることによって、高い波長選択性と励起光除去性能が実現できる。ただし、レーザー剥離では、作製プロセスに時間がかかることが課題となる。刺入型イメージセンサは、生体への刺入後にセメント等で骨に固定することを想定しており、再利用が難しい。そのため、複数のデバイスを同時に作製し、一台あたりの作製時間を短縮できることが望ましい。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べたとおり、光源および励起光除去フィルタは、概ね狙い通りの効果を示している。しかし、動物実験を行う上で課題となる点も現れてきている。 励起光源については、現在の光ファイバを用いた系で脳スライス等の蛍光観察実験を進めイメージング性能の評価や画像処理手法の確立を進めていく。また、並行してLED光源の改良も進める。干渉フィルタの転写プロセスを用いることによって、LED光源の不要波長成分を除去する。干渉フィルタは、入射角によって透過スペクトルがシフトするため、不要波長成分が特に浅い角度で透過する。これに対する対策を施し、刺入型イメージセンサでの蛍光観察に適用可能な光源の実現を目指す。 励起光除去フィルタについては、十分な性能が得られるものの、今後の動物実験に向けて作製プロセスを改善することが必要になると考えられる。レーザー剥離だけでなく、可能な部分にエッチングプロセスを組み合わせることによって一括製造し、個体差の少ない多数のデバイスを同時に作製できるようにする。
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