研究課題/領域番号 |
18H03520
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藏田 耕作 九州大学, 工学研究院, 准教授 (00368870)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞分裂 / 電界分布 / 誘電泳動力 / 低侵襲ガン治療 / 遺伝子マニピュレーション |
研究実績の概要 |
本研究では,細胞に電界を与えて染色体や微小管に誘電泳動力を働かせ,細胞分裂を阻害して壊死させる新しいガン治療法の確立を目指している.そのために,交流電界中で細胞の分裂過程を解析して電界による分裂阻害のメカニズムを解明すること,分裂の阻害に最も効果的な電極配置と電圧印加条件を予測する数値シミュレーション法を確立すること,の2つを目的とした. 平成30年度は,分裂過程を明瞭に観察できるアフリカツメガエルの受精卵を実験対象とし,①分裂過程の三次元形状計測と②数値シミュレーションによる最適な電極配置と電圧印加条件の検討を行った. ①では「くびれ」を生じながら分裂する受精卵を経時的に化学固定し,形態計測を行った.連続切片を作製して形状をデジタイズする方法では,形状のゆがみや位置あわせの不正確さという問題が生じた.また,共焦点レーザー顕微鏡では深さ方向に十分な観察が行えなかった.そこで,マイクロCTによって形状を取得し,PC上で三次元形態を再構築する方法を用いた.その結果,「くびれ」を再現した有限要素モデルを構築することができた. ②では,この有限要素モデルを用いて,電界と誘電泳動力の分布を計算する数値シミュレーションを行った.平行平板電極の間に卵を置き,交流電界の周波数や電界に対する「くびれ」の方向が誘電泳動力の大きさに与える影響を検討した.さらに,細胞内外の溶液と細胞膜の導電率および比誘電率の違いの影響も評価した.その結果,球状の卵に外部から交流電界を与えても卵内の電界強度は一様になるが,分裂過程で「くびれ」の生じた卵では電界の集中が生じ,その場所で大きな誘電泳動力を生じることが示された.また,誘電泳動力の大きさや最大値をもたらす周波数帯は,細胞外基質の導電率,細胞内溶液の導電率,細胞膜の比誘電率,細胞直径の4つのパラメータに最も大きな影響を受けることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,①受精卵の分裂過程の三次元形状計測,②数値シミュレーションによる最適な電極配置と電圧印加条件の検討の2つを行う予定であった.①については,当初の共焦点レーザー顕微鏡を用いる方法と連続切片を作製して顕微鏡観察する方法では十分に正確な形態計測を行うことができなかったが,マイクロCTを用いた方法に変更することで,より正確な形状データをより簡便に得ることができた.②については,有限要素モデルにおいて薄い細胞膜をモデル化せずに境界条件を与えて表現する方法を用いて,予定通りの解析を行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は,前年度に引き続き,数値シミュレーションによる最適な電極配置と電圧印加条件の検討を行う.これまで平行平板電極中に置かれた受精卵を対象とした解析を行ったので,これを発展させて,例えば四対の電極を対向させ種々の電極をペアにして電圧を印加する条件でも解析を行う.そして,電極の配置と印加条件(周波数,溶液の誘電率)が誘電泳動力の分布に与える影響を明らかにするだけでなく,細胞分裂の方向や段階に応じた最適な印加条件を明らかにする. また,この解析結果をもとにして,実験に際して製作しなければならない実験装置の大きさや卵の配置について検討を行う.そして,培養容器と電極から構成される実験装置を製作する.具体的には,金属平板電極を絶縁チューブで覆った絶縁電極を作製し,培養容器の中で八角形をなすように電極を固定する.電極に交流電圧を印加し,発生する電界を光電界センサーによって計測するとともに,その結果を数値シミュレーションと比較する.
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