本研究では,細胞に電界を与えて染色体や微小管に誘電泳動力を働かせ,細胞分裂を阻害して壊死させる新しいガン治療法の確立を目指している. 昨年度に実施したアフリカツメガエルの受精卵を用いた実験では,電界印加を行っていない対照群における生存率の低さが問題であった.培養条件を検討して,MBS溶液にFicollを添加し,96穴プレートで受精卵を個別に分けて16℃で培養することによって,生存率を上げることができた. そこで,受精卵が二細胞から四細胞になるまでの間,卵割面と平行または直交する方向に微弱交流電界を印加し,その後の卵割の様子を観察した.なお,印加する電界の強度と周波数はこれまでの数値シミュレーションの結果から最適と思われるものに設定した.中期胞胚遷移(受精後8時間)における生存卵数を基準にして原腸胚期(受精後24時間)における生存率を算出して比較したところ,電界の印加有無や方向による生存率に有意差は認められなかった.しかし,受精後96時間の個体で奇形発生率を比較すると,電界を印加していない対照群で21%であったのに対し,卵割面に平行に電界を印加した群で41%,垂直に印加した群で50%と有意に増加していた.このような個体発生後に認められた奇形は,メカニズムは不明なものの,電界の印加によって引き起こされた可能性が高い. 一方,交流電界が細胞膜電位に与える影響を明らかにするためにパッチクランプ法による計測を進めた.ガラス電極の製作条件などを検討し,ホールセル法によって細胞膜抵抗の時間的な変化を計測することができるようになった.引き続き,交流電界印加後の膜抵抗変化を計測する予定である. 電界分布の数値シミュレーションに関しては,タグチメソッドと呼ばれる品質工学で用いられる最適化手法を組み合わせて,最大の誘電泳動力を発生させる電界印加条件を見出す方法について取りまとめ,論文掲載された.
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