これまでウイルス検査等に利用されてきた熱サイクルを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法は、熱応答性が低いことが原因となり、目的としている配列以外のDNAを増幅させていること問題が指摘されてきた。そこで、本研究室ではこれまで、熱応答性の高いペルチェ素子を組み込んだ高速熱応答型PCR装置を提案・開発してきたが、熱を利用することによるDNAの損傷や酵素の失活、さらに長時間動作といった問題を、本質的に解決できないことから、熱の代替として振動を用いた新たなDNAの増幅法(振動PCR法)を目指してきた。その手法では、DNAや試薬を含んだ溶液の温度は37℃一定とすることを最大の特長としており、温度を高温に変化させることがなく、高速・高精度な増幅が原理的に可能である。振動PCR法のサイクルは、1)37℃の恒温槽内で溶液の入ったチューブを振動子に取り付け、チューブごと振動させる。その振動により2本鎖DNAを1本鎖DNAに変性させる。2)振動を停止させ、1本鎖DNAとプライマーを結合させる。37℃で活性する酵素を溶液内に混合しておき、結合した直後からプライマーを伸長させる。振動PCR溶液の構成は以下のとおりである。超純水;DNAポリメラーゼ、 バッファー液1×、dNTP Mixture 0.2[mM]、プライマーA 0.4[μM]、プライマーB 0.4[μM]、酵素 0.01[U/μl]、λDNA 0.2[ng/μl]。この手法により、振動時間10秒、無振動時間30秒、サイクル数を5とした条件により、最大で18倍の増幅率を得た。
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