研究課題
本研究では、運動後の筋で筋痛が生じにくくなるという筋の運動適応のメカニズムの解明のため、運動後の筋発現分子の網羅的解析を実施し、本適応現象に関わるタンパク質を同定することを目的として実施した。昨年度までに、遅発性筋痛モデルラットの骨格筋を用いて、転写産物レベルとタンパク質レベルで二種類の網羅的解析を実施し、運動負荷の有無によって発現量が変動する因子(群)を調べ、いくつかの細胞機能に関わる分子の増減を観察した。一方、これまでの解析では、筋のエネルギー代謝に関わると考えられる因子の変動が多く観察され、筋痛発症に寄与する因子が見出しにくい可能性が考えられた。そのため、筋痛を生じやすい伸張性収縮運動を実施した筋(LC群)との比較対照として、これまで用いていた非運動筋に代えて、遅発性筋痛が生じにくい短縮性収縮運動を施した筋(SC群)を準備し、昨年同様の筋の膜タンパク質プロテオーム解析を実施した。その結果、運動5日後の筋において、エンドサイトーシスなどの膜融合過程を含む機能に関わるタンパク質群の発現が上昇していることを見出した。そのうち、細胞膜修復において中心的な役割を担うdysferlinとMG53について、免疫組織化学的解析や生化学的解析による解析を実施した。伸張性収縮運動を5日間隔で2度繰り返して行い、1回目と2回目の運動後の筋におけるmRNA発現を解析したところ、これらの分子は初回の運動後に発現が上昇し、二度目の運動後には上昇しないという変動を示した。以上の結果から、運動に対する筋の適応・筋性疼痛の軽減に、膜修復の亢進が関わる可能性が示唆された。今後も引き続き、遺伝子欠損マウス等を用いてこれらの分子の運動適応への関与の検証をすすめていく予定である。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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The Journal of Physiology
巻: 600 ページ: 531~545
10.1113/JP282740