研究課題/領域番号 |
18H03536
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
仲村 英也 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00584426)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 細胞膜 / ナノバイオ界面 / 細胞膜透過 |
研究実績の概要 |
ナノ粒子を利用した治療・診断技術を実現するには、ナノ粒子が細胞膜を透過する現象を精密に制御する技術が必要である。本研究では、申請者が最近見出した『微弱な電場の印加によってナノ粒子が細胞膜を低侵襲で直接透過する』新奇な透過現象に焦点を当て、人工細胞膜実験と分子動力学計算の双方からその透過機構を理解するとともに、ナノ粒子の細胞膜透過の制御技術開発に繋げる。2018年度の研究実績は以下の通りである
1.一度の実験で最大16個の平面脂質膜(人工細胞膜)を作製することができる並列型アレイデバイスを作製し、これを用いてナノ粒子の人工細胞膜透過を短時間で大量に評価できる実験系の構築を行った。脂質二重膜は、その構造から抵抗とコンデンサが並列に接続されたRC並列回路と電気的に等価と見なすことが出来る。これを利用して、三角波電圧を印加した際に測定される微小電流の矩形波から、膜比容量を算出した。その結果、本装置で測定された平均膜比容量は文献値と同等であり、これより構築した実験系で、脂質二重膜が形成できることを確認できた。
2.ナノ粒子の膜透過には微弱な電場の印加が必要なことから、ナノ粒子・細胞膜界面の電気現象が重要な役割を担うと推察される。そこで、申請者がこれまでに構築した分子動力学(MD)計算モデルを拡張し、界面における局所的な膜電位(細胞膜を介した電位差)の算出を自動的に行う計算コードを開発した。MD計算から求まる電荷密度分布入力値として、電位と電荷の基礎式(ポアソン-ボルツマン式)を解き、最終的にナノ粒子と細胞膜表面の接触界面の膜電位を数値計算で算出した。数値計算結果は解析解と良好に一致することが確認でき、構築した計算コードの妥当性を確認した。さらに、脂質膜が破壊され始める臨界膜電位を決定することもできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画段階でボトルネックになると予想された平面脂質膜実験系の構築を予定より早く終えることができた。特に、並列型アクリルデバイスは既製品ではないため、設計および試作から独自に行ったが、これを速やかに遂行し、装置を最適化することができた。また、実験系構築を予定よりも早く終えることができたため、次年度の研究に用いるナノ粒子試薬の選定・キャラクタリゼーションまで済ませることができ、次年度の実験研究に向けた準備を終えることもできた。計算では、計算系全体の電位分布を計算するとともに、ナノ粒子と細胞膜の接触界面座標を分子密度分布に基づいて一意的にかつ自動的に定めることができる計算手法の構築を予定より早く終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ナノ粒子物性(表面電位・粒子径)が、電場印加環境におけるナノ粒子の細胞膜透過現象に及ぼす影響を実験で解析しつつ、分子動力学計算により界面電気現象を詳細に解析する。 表面が正もしくは負に帯電しており、粒子径が5 nm~100 nmのオクタンチオール修飾金ナノ粒子(市販品・既に選定済み)を用いる。各粒子の表面電位とサイズは、粒子径・ゼータ電位測定装置(購入希望品)で評価する。実験では前年度に構築した並列型デバイスを用いる。片側のウェルにナノ粒子懸濁液を加えて所定の電場を印可し、計測された電流から膜を介したナノ粒子の移動を捉える。はじめに、膜が破壊され始める臨界印加電位(膜破壊電位)を実験により決定する。そして、実験ではこの膜破壊電位よりも低い電位の範囲で実験を行う。すなわち、膜破壊電位以下の印加電位において起こるナノ粒子の細胞膜透過を実験で捉える。並行して、分子動力学計算では、粒子の膜透過が起こり始める臨界印加電場の前後で界面の局所的膜電位がどの程度変化するのかを計算して詳細に解析し、透過が起こる本質的要因を、ナノ粒子と細胞膜の界面電気現象の観点から明らかにする。
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