本研究では、『微弱な電場の印加によってナノ粒子が細胞膜を低侵襲で直接透過する』新奇な透過現象に焦点を当て、人工細胞膜実験と分子動力学計算の双方からその透過機構を理解するとともに、ナノ粒子の細胞膜透過の制御技術開発に繋げる。2021年度の研究実績は以下の通りである
分子動力学(MD)シミュレーションを用いてナノ粒子の粒子径が電場印可時の細胞膜透過性に与える影響を解析した。粒子径が3.90 nmから7.54 nmのオクタンチオール修飾金ナノ粒子を対象とした。その結果、微弱な電場の印加により、粒子径が3.90 nmの場合のみならず、7.54 nmまででもナノ粒子は細胞膜を透過し、さらに膜は自己修復することが分かった。しかし、ナノ粒子と膜の接触界面での局所膜電位が膜破壊電位を超えていた場合であっても、サイズの大きなナノ粒子の膜透過性は低下した。これは、サイズの大きな粒子ほど、粒子接触界面におけるリン脂質分子の側方拡散が抑制され、膜の流動性が低下したことが原因であると考えられる。さらに、粒子の修飾分子(アルカンチオール)の炭素鎖長が粒子の膜透過性に及ぼす影響も解析した。その結果、コアとなる金ナノ粒子のサイズが小さい粒子は炭素鎖が長いほど膜透過性が低下する一方、コアサイズが大きい粒子の場合は膜透過性は炭素長の影響を受けなかった。これは、コアサイズが小さく粒子表面の曲率が大きいほど、アルカンチオール単分子膜の構造が乱雑となり、これによって細胞膜のリン脂質分子が絡み合いやすくなることが要因であることが分かった。
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