本研究ではPEGを用いない癌治療DDSの開発するために、低分子親水性化合物Tris修飾脂質(TSL)と微弱低pH応答性ぺプチドSAPSあるいはその腫瘍内透過型ペプチドSAPS-iRGDを修飾したリポソームを構築することを目的とした。これまでに、TSL-SAPS-iRGD-lipoが高い腫瘍内透過性を示し、微弱低pHに応答して細胞質へ送達されることを明らかにした。 そこで、TSL-SAPS-iRGD-lipoへのsiRNA封入をブタノール希釈法により試みたが、TSLを用いた場合のみ凝集し、粒子が構築されなかったため、siRNAの代わりにAkt阻害剤PHT-427を封入して細胞死誘導活性を評価した結果、微弱低pHに応答した細胞死誘導が認められた。また、SAPS-lipo、TSL-SAPS-lipo、PEG-lipoの表面固定水和層の厚さ(Fixed Aqueous Layer Thickness: FALT)を検討した結果、これらのリポソームの血中滞留性とFALT値の間に相関性が認められた。また、リポソーム表面からのSAPSの解離を検討した結果、pH変化にかかわらず、SAPSはリポソーム表面と相互作用していることを示す予備的な結果が得られ、このSAPSのリポソーム膜上での存在状態がPEG修飾DDSの課題であるaccelerated blood clearance (ABC)現象の回避をもたらす可能性が示唆された。 また、癌微小環境形成阻害の標的と期待されるLipocalin2(Lcn2)は鉄トランスポーターの発現を誘導することで細胞内鉄量を調節し、低酸素誘導因子(HIF)を活性化することが示唆されたことから、TSL-SAPS-iRGD-lipo 内にLcn2を抑制可能な薬物を内封し、腫瘍深部へ送達することで、癌微小環境の改善が期待される。
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