研究課題/領域番号 |
18H03545
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
水戸部 一孝 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (60282159)
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研究分担者 |
齊藤 元 岩手医科大学, 医学部, 教授 (20323149)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ハイパーサーミア / 末期ガン / 低侵襲治療 / QOL / ワイヤレス温度計測 / 誘導加熱 |
研究実績の概要 |
本研究では呼吸器系の末期ガン患者のQOL向上のための低侵襲ハイパーサーミア技術の構築を目指しており,本申請では腫瘍部に注射した「低キュリー点の感温磁性体微粒子(FILCT)」を温度計測用のプローブとした「ワイヤレス温度計測技術」を構築すると共に,体表面から高周波磁場でFILCTを誘導加熱することにより腫瘍部のみを選択的に43~45℃の一定温度で加熱する「ワイヤレス温度計測・加熱装置」の構築を目指している。 令和元年度に発信周波数を倍増させた改良後の誘導加熱装置には,コイル電流が周期的に変動する現象が生じ,ワイヤレス温度計測に不可欠な磁束の歪みをロックインアンプで同期検波できない課題が顕在化していた。また,印加磁場の周波数を倍増させたことで金コート感温磁性体(Au-FLICT)表面に生じる渦電流が増加して発熱効率が向上するメリットの一方で,磁束がシールドされ,ワイヤレス温度計測に不可欠な感温磁性体の透磁率の変化の検出感度が低下する理論上避けられない問題が残っていた。 令和2年度は,当初の計画通り「Ⅱ-Ⅰ 体動ノイズ低減のための回転走査法の理論構築と実装」および「Ⅱ-Ⅱ インプラントの発熱効率の改善手法の検討」を進めた。現有設備である多軸ロボットアームにドライブコイルと検知コイルを固定し,三次元空間で回転走査することで,感温磁性体をdrive coilの中心軸上に自動的に位置合わせする手法の妥当性を物理実験により実証した。同時に,前年度に改良した誘導加熱電源を用いて発熱効率の向上および加熱ムラを物理実験により評価した。 さらに,当初の計画では想定していない研究成果となるが,印加磁場の周期的な振動現象をリファレンス信号としてロックインアンプで同期検波する回路を作製し,高周波磁場で誘導加熱しながら低周波の振動成分で同期検波する手法を新たに考案し,妥当性を物理実験により実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究で,「Ⅰ-Ⅰ 磁束印加検知ユニットの試作」,「Ⅰ-Ⅱ 計測系の広帯域化と印加磁場の周波数向上」および「Ⅱ-Ⅰ 体動ノイズ低減のための回転走査法の理論構築と実装」を達成し,現在「Ⅱ-Ⅱ インプラントの発熱効率の改善手法の検討」を進めている。 前年度設計した「磁束印加検知ユニット」を3Dプリンタで造形し,コイル間距離および姿勢をパラメータとして励磁コイル形状に適したピックアップコイルの形状を物理実験により明らかにした。また,新たに導入した多チャンネル光ファイバー温度計により感温磁性体の昇温・冷却過程の温度分布を計測することで,感温磁性体の温度ムラがピックアップ電圧の時間微分値を低下させる要因であることを明らかにした。さらに,体動による計測誤差を低減する回転走査法に必要な磁場印加検知ユニットを設計すると共に,物理実験により妥当性を実証した。また,誘導加熱電源,ロックインアンプをGPIB経由でPCに接続し,新規に導入したLabVIEWでプログラミングすることでピックアップ電圧を閾値として目標温度で誘導加熱するワイヤレス温度計測加熱システムを新たに構築すると共に,印加磁場の周波数を2倍に向上することで感温磁性体の発熱効率が改善することを物理実験で実証し,当該年度の到達目標をクリアした。 これに加え,当初は想定していなかった励磁コイル用電流の低周波振動現象とAu-FILCTの磁気シールドという課題に対し,発想を転換することで,本来ノイズである低周波振動をリファレンスとしてロックインアンプで同期検波することで発熱効率を向上させながらAu-FLICTの透磁率をワイヤレスで検知する手法を新たに考案し,「高周波磁場で誘導加熱しながら,磁気シールドの影響を低減可能なワイヤレス温度計測技術」を構築し,その妥当性を物理実験により実証している。
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今後の研究の推進方策 |
令和三年度は,前年度に新たに構築した磁気シールドの影響を低減可能なワイヤレス温度計測技術を温度計測加熱システムに実装すると共に,さらなる発熱効率と透磁率変化の検出感度の向上をめざしてFILCTおよびナノ磁性微粒子混合サンプルを対象として物理実験による検討を進め,本システムの適用可能範囲を明らかにする, これらの取組を通して「Ⅰ-Ⅲ in vitro実験による妥当性評価とシステムの改良」を達成すると共に,「Ⅲ.In vivo実験による生体適合性および治療可能期間の評価」に関する文献や過去の知見を収集し,安全性に関する検討を進める。
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