研究課題/領域番号 |
18H03547
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
曾根 逸人 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80344927)
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研究分担者 |
坂田 利弥 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70399400)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カンチレバ-半導体複合型バイオセンサ / 検査・診断システム / 医用システム / 電子デバイス・機器 / モニタリング |
研究実績の概要 |
本研究では、受精卵の外周を固定できるリング型バイオセンサを作製し、育成期間中の質量変化と受精卵から放出されるイオン濃度を同時連続モニタリング可能なシステムの開発を目指す。平成30年度は、以下の成果を得た。 (1) リング型マルチセンサの形状設計とプロセス設計: SOI基板のデバイス層に内径90μmのドーナツ状のリングを形成し、4方向からの梁および片持ち梁で支持するリング型センサを有限要素解析ソフト(COMSOL Multiphysics)を用いて設計するとともに、フォトリソグラフィによる作製プロセスを設計した。その結果、梁の長さ100~500 μm、梁のネッキング幅3~6 μmをパラメータとして4方向梁16種類、片持ち梁8種類の形状を決定した。 (2) リング型マルチセンサの作製と特性評価: センサ作製に必要な5層分のフォトマスクを東大VDECの電子線描画装置(F5112,ADVANTEST)で作製した。そして、熱酸化絶縁層形成とPドーピング、電極形成、センサ外形形成、絶縁保護層形成、裏面深堀加工、犠牲層エッチングの6工程でセンサを作製した。Pドーピングで形成したピエゾ抵抗に対してブリッジ回路を構成してポリスチレンビーズを搭載したところ、5.3 mVの出力変化が確認できた。また、イオンセンサのpH応答を測定したところ22.4 mV/pHの検出感度が得られた。 (3) イオンセンサ高感度化のためのSiナノワイヤ(SiNW)バイオセンサの研究: SOI基板にフォトリソグラフィで電極と絶縁膜、電子線リソグラフィで最小線幅16.2 nmのSiNWセンサを作製した。低濃度アルブミンおよび免疫グロブリンG(IgG)と反応させた結果、濃度6 aMの超低濃度IgGで約5%の抵抗変化を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前記(1)のリング型マルチセンサの形状設計では、目標とする共振周波数が大気中50 kHz以上、液中25 kHz以上、変位量が0.2 nm以上の特性が得られるよう有限要素解析によるシミュレーションを行ってセンサ形状を設計することができた。プロセス設計では、5回のフォトリソグラフィを含む6工程の重ねプロセスを設計した。特に、Pドーピング部と電極の接合部では導通を得る必要があるため、アライメント精度2 μmで確実に接合できるよう設計した。また、リングセンサをSOI基板のベースSi層から切り離す裏面深堀加工では、両面マスクアライナを用いた裏面マスク露光が必要なため、アライメント精度が得られるようマーカ形状を工夫した。 (2)のリング型マルチセンサの作製と特性評価では、6工程の条件出しを行った上で、ピエゾ抵抗検出とイオン検出が可能なリングセンサの作製ができた。ピエゾ抵抗検出では得られた出力が小さいため受精卵の成長に伴う質量変化を測定するには不十分である。また、一部のセンサでは犠牲層エッチングが不十分で、リングセンサの周囲に犠牲層が残った部分が見られた。さらに、リン酸緩衝液中でセンサを動作させたところ、電極の腐食が発生した。したがって、Pドーピング、絶縁保護層形成、犠牲層エッチングを中心に加工条件の最適化を図る必要がある。 (3)のSiNWセンサ作製では、ネガ型電子線レジストのHSQを用いることでレジストNWの細線化ができ、反応性イオンエッチング(RIE)のエッチング速度を抑制するなどの条件最適化の結果、幅16.2 nmのSiNWの形成に成功した。そして、6 aMの超低濃度IgGが検出できたので、これを受精卵から出るイオン濃度検出への応用を検討する予定である。 以上の理由より、研究が遅れている部分はあるが、多くの進捗した部分があるので、総合的にはおおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、以下の3項目について研究を進める。 1) リング型マルチセンサの作製(曾根、張): 前述のように、センサ出力不足、犠牲層一部残留、電極腐食の課題を解決するために、Pドーピング、絶縁保護層形成、犠牲層エッチングを中心に加工条件を検討する。Pドーピングでは、ドーパント剤塗布膜厚と加熱条件を最適化する。絶縁保護層形成では、材料の変更を含めて工程を見直し、新たなフォトマスクを作製した上でセンサを再試作する。犠牲層エッチングでは、SOI基板の犠牲層に対してRIEを行って、エッチング速度を再測定して、犠牲層が完全にエッチングされる条件を決定する。 2) リング型マルチセンサの特性評価システムの開発(曾根、張、坂田): 試作したセンサの梁に埋設されたピエゾ抵抗に、申請設備のデータ集録システムとLabVIEWソフトで構築する検出回路を接続し、リングセンサの変位と振動に伴う周波数変化を検出する(曾根,張)。また、リング内周表面に形成された半導体センサも同システムに繋ぎ電気特性を測定する(主担当坂田)。なお、4本梁で支持するセンサは剛性が高く、ピエゾ抵抗では変位が検出できない可能性がある。その場合、一方向から2本梁で支持する片持ち梁型を作製する。 3) リング型マルチ卵重計システムの開発(坂田,曾根,張): 受精卵を安全かつ確実にリングセンサへ搭載するため、デバイスの上部と下部に幅が200 μm程度のマイクロ流路をPDMSで形成して、その中を受精卵が転がってセンサに搭載されるようにする。また、培養液を逆流させれば安全に回収できる。これが実現できれば、培養液を供給すると同時にリングセンサに受精卵を押し付けて固定できるので、マウス受精卵の全体質量が測定可能になると考える。なお、流路設計と評価は坂田が担当し、製作は昨年度導入したプラズマスパッタ装置等を用いて曾根と張が担当する。
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