現在の手術ロボットは,従来の産業ロボットと等しく高剛性であり,人間が日常的に行うような自身の筋緊張を和らげることで衝撃を吸収する「しなやか」な動作が出来ない.よって,いわば常に緊張状態で手術を続けているような状況であり,ふとした周辺組織との接触が大きな損傷を与える危険性をはらんでいる.本課題ではこの問題を解決するため,申請者がこれまでに研究を行ってきた,柔軟要素の大変形を機構に内包する柔軟メカニズムを活用し,手術ロボットに搭載可能な小型,軽量で,かつ広い可変剛性域を有する可変剛性機構モジュールを開発した.この開発に関して,最も大きなポイントはその機構実装にある.本研究では,内部に帯状弾性体を内蔵し,ばねとしての有効長を変更することで関節剛性を可変とする新たなロボット関節を実現した.帯状弾性体は,ロボット関節内に収納されており,内部の小型モータの動作によってその関節剛性に関与する有効ばね長を変更可能である.有効ばね長が0の場合に最大剛性を実現し,有効ばね長が長いほど低剛性を実現する.開発した装置の評価として,外部から当該ロボット関節を駆動するモータにトルクセンサを組み合わせることで,関節剛性を評価するためのシステムを構築した.実験評価によって,提案した構造は関連研究と比較して小型であり,幅広い剛性変化を行うことが可能であった.これにより,この可変剛性機構モジュールを用いて,剛と柔を手術の局面で使い分けることのできる手術ロボット・システムを構築する事が可能となった.
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