研究課題/領域番号 |
18H03558
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
三枝 亮 神奈川工科大学, 創造工学部, 准教授 (80386606)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歩行支援 / リハビリ工学 / 知能ロボット |
研究実績の概要 |
本研究では手つなぎ歩行を工学的に実現して歩行支援に適用することを目的とする。今年度は手つなぎ移動時に対象者の認知運動に与える効果を計測評価するためにロボットアームを改良設計し、移動ロボットに搭載可能な駆動機構と筐体を試作した。本研究のロボットアームは安全性と操作性を高めるために腱駆動と関節固定を組み合わせた制御を行っているが、関節固定時に可動部が固定力不足によって滑る問題があった。そこで関節可動部に空気圧機構を導入して関節可動部の固定力を改善した。本改良によって対象者がロボットアームを把持する際に関節ごとの剛性を調整できるようになった。また、ロボットアームのハンド部には対象者の体温や心拍を計測するセンサーを配置しているが、本改良では新たに血中酸素濃度を計測するセンサーを実装した。歩行開始時に血中酸素濃度を計測することで歩行訓練による体調変化のリスクを軽減することができ、特に心疾患を持つ患者への安心度を高めることができた。 今年度の研究成果に関して、手つなぎ歩行支援の全体システムについては国内学会のリハビリ計測分野で論文が採択され発表を控えている。ロボットアームの設計改良による効果については国内学会の精密機械分野に招待されており発表を控えている。手つなぎ歩行支援と介護医療分野のロボット活用については国内学会に招待され成果を発表した。同様の内容について国際学会での講演が決定している。ロボットアームで対象者を把持するための認識機構については国内学会の情報処理分野で発表した。本研究成果の事業活用として設備機器メーカーとの技術発明2件の特許出願を準備済である。これらについては次年度内に出願を完了する見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標達成に向けて、研究は概ね順調に進展している。研究を実施するための基盤技術となる手つなぎ歩行支援ロボットに関して、今年度は研究実績の概要で述べたロボットアームの改良設計に加えて、歩行計測機能と視線誘導機能についてもシステムデザインを行っており、技術発明としてまとめている。 歩行計測機能は対象者が自立歩行から手つなぎ歩行に移行したり、手つなぎ歩行から共歩きに移行する際に歩行状態を判断する上で重要な機能である。手つなぎ歩行支援ロボットが巡回中に周辺の歩行者を検知した場合、対象者の歩行状態を計測評価することで手つなぎ歩行への移行を提案できる。ロボットアームを用いると対象者の静止時の安定性を計測できる。立位時の安定性は歩行時よりも停止時に計測されるデータの方が信頼度が高い。静止時に対象者とロボットが手つなぎした状態でロボットアームへの負荷力を計測することで簡易に歩行安定性を推定できるので有用である。 視線誘導機能は歩行練習時に周辺にいる人物との衝突を回避する上で重要な機能である。練習者とロボットが手つなぎで歩行練習を行う際に、練習者は自身が把持するロボットアームを介して力触覚的にロボットの移動速度や移動方向を読み取ることができるが、周辺にいる人物にとっては練習者とロボットの移動を予測しづらい。ロボットが合成音声などの聴覚的な手段で周辺者に移動を伝達すると練習者が混乱する恐れがある。ロボットがフェイスパネル上の視線を操作して周囲にいる人物に移動の方向やタイミングを知らせる。これによって周辺にいる人物との衝突や見合いを回避することができる。 これらの歩行計測機能と視線誘導機能を手つなぎ歩行支援ロボットに導入することで、本研究の目標達成を確実にする。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、手つなぎ歩行支援ロボットをリハビリ医療施設、高齢者介護施設、障害者支援施設などの協力施設に持ち込み、高齢者や障害者を主な被験者として施設内の機能回復訓練室、食堂、廊下等で歩行練習を行う。機能検証の結果をもとにロボットの検知機能、応対機能、診断機能を改良して手つなぎ歩行支援ロボットを完成させる。歩行支援ロボットが利用者を検知して歩行練習を提案し、ロボットアームを把持させて歩行練習を開始し、歩行練習後に練習の達成度を提示するようにシステムを改良する。これらの手つなぎ歩行練習の一連の流れを練習者とロボットだけで実行できるように実装する。 検知機能は複数センサの計測情報を統合して実装する。ロボットから離れた位置にいる人物はレーザ計測と画像計測を用い、接近時には奥行き計測と熱計測により検知する。応対機能ではロボットが対象者に接近しながら声がけを行いロボットアームを把持するように促す。診断機能では、立位姿勢での安定性を診断するアプリケーションを実装する。例えば、ロボットアームを把持させた状態で両目を閉じる、片足立ちする、屈伸するなどの指示を与え、各条件下で把持の力触覚計測、脈波等の生理計測、屈伸等の運動計測を行い、平衡感覚と運動機能を推定して手つなぎ歩行支援時の制御パラメータにも活用する。 手つなぎ歩行練習では経路を利用者に提案し、ロボットアームを把持させて歩行練習を行う。ロボットは歩行練習中の経路、時間、上肢下肢の動作を記録して練習後に練習内容と歩行時の状態を提示し、利用者に歩行機能を認識させる。これらの実装機能をリハビリ患者、高齢者、障害者を対象に検証して各施設の専門職員と評価する。
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