研究課題/領域番号 |
18H03570
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡田 暁生 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70243136)
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研究分担者 |
藤原 辰史 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (00362400)
小関 隆 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (10240748)
三輪 眞弘 情報科学芸術大学院大学, メディア表現研究科, 教授 (20336647)
橋本 伸也 関西学院大学, 文学部, 教授 (30212137)
田辺 明生 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30262215)
佐藤 淳二 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (30282544)
藤井 俊之 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (30636791)
森本 淳生 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (90283671)
上田 和彦 関西学院大学, 法学部, 教授 (90313163)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人文学 / 人間性 / 芸術 / 物語 / 歴史 / 1970年代 / 精神分析 / 経済学 |
研究実績の概要 |
2018年度は京都大学人文科学研究所にて、一カ月に二回のペースで合計12回の研究会を開催した。主題は芸術(音楽、メディアアート)、経済学(とりわけ新自由主義経済思想)、精神分析、現代思想など多岐にわたるが、議論の焦点の一つとして浮き上がったのが、今日の世界的状況のルーツとしての1970年代である。歴史学においてはいわゆる言語論的転回などによって、既述の相対性が過度に強調されるようになる。歴史的「事実」のラディカルな否定、そして「記憶」の過剰なまでの強調はまた、今日のいわゆる歴史認識問題(東アジアばかりか旧東欧においても、これは極めて深刻な政治的係争を引き起こしている)やポスト・トルース時代の遠因となっているといっても過言ではない。また第二次大戦後のいわゆる前衛芸術が強いユートピア(反ユートピア)希求を一つの特徴としていたのに対して、1970年代前後からの実験芸術(とりわけミニマルミュージックやアンビエントミュージック)は、相対主義を旗印とした一見自由な、しかし紛れもない保守回帰と闘争への白けと心理学的ミーイズムを特徴としており、1968年闘争が挫折して代わりに環境保護運動やメンタルヘルス等が新自由主義経済とタイアップするように浮上してきた時代相と符号している。思想においては、これまた行動主体の過度の否定とオートポイエーシス的システムの不可避性の強調が、この時代のフランス思想ならびに(アドルノが亡くなったのちの)ルーマンの思想にはっきり見られる。また「環境」や「癒し」や「コミュニケーション」の流行は、近代芸術が標榜してきた「大きな物語の啓示」からの離反を示唆するとみるべきであろう。端的に言って、「語る主体」を消すことを通し辛うじて、人文学の場合は「学的客観性」を、芸術創作の 場合は「社会的有用性」を、それぞれ担保しようとしてきたのがこの半世紀弱であるとすら言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
歴史研究の方向として「1970年代」が、また同時代認識という方向で「システム」が、本研究の二つの焦点として明確になってきたのみならず、経済思想やバイオアート、さらにはメディアアート実践などに関わる研究者やアーティストとの人的連携ネットワークが形成されつつあり、当初の計画以上に研究が進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は引き続き京都大学人文科学研究所において、一カ月に二回のペースで研究会を開く。この研究の焦点の一つである1970年代についての歴史研究としては、ドイツ思想、フランス文学、中国現代史、アメリカ現代史、サッチャー主義などを中心として、報告討議を行う予定である。またもう一つの焦点である「システム」(現代社会とはつまり、いやおうなしに世界を覆い尽くしてしまったテクノロジー・システムのオートポイエーシス的回転にどうストップをかけるかということに尽きるだろう)について、「サイバネティクス」「ビッグデータ」「バイオアート」などを主題として報告を行い、とりわけ分担研究者である作曲家の三輪眞弘とともに、現代におけるアート創作におけるそれらのアクチュアルな諸問題を議論する予定である。
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