研究課題/領域番号 |
18H03586
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中村 誠一 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 教授 (10261249)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | コパンのマヤ遺跡 / マヤ文明 / 王朝創始 / ヤシュ・クック・モ / カレンダーラウンド |
研究実績の概要 |
本年度は、コロナ禍で海外に渡航しての発掘調査の実施が不可能であったため、日本において研究(資料整理、報告書の編集・出版、論文執筆・出版、学術シンポジウムにおける発表等)に従事した。
2020年に出版されたグアテマラ考古学シンポジウム論集及びLatin American Antiquity誌上におけるカミナルフユ遺跡の新編年、2020年12月の古代アメリカ学会において公表されたテオティワカン調査における放射性炭素年代測定値等を参照しつつ、コパンにおける王朝創始期の土器資料、放射性炭素年代測定値の再検討を行い、祭壇Q上面碑文の王朝創始期に関する出来事を記したカレンダーラウンドの西暦への比定の正誤問題、コパン遺跡アクロポリス東側で確認されている王朝創始期とされる3つの建造物(フナル、ジェナル、マルガリータ)の使用年代の比定の是非に関して、アクロポリス内建造物の建築層位及びPICPAC,PROARCO,7号神殿において得られている研究代表者自身の一次資料および二次資料から検討した。さらに、これまでに得られている放射性炭素年代測定値の再検討を行った。
その結果、本研究で得られている資料からは、コパンにおける王朝創始時期は定説の5世紀前半ではなく4世紀後半の可能性もあること、定説通り碑文の解読によるカレンダーラウンドの5世紀前半の年代への比定が正しければ、定説でその時期の建造物とされているアクロポリス内建造物群(フナル、ジェナル、マルガリータ等)とは対照できないことが強く示唆された。また、王朝創始期におけるコパン編年は、ティカル編年やテオティワカン編年およびカミナルフユにおいて2020年に新たに提示された新編年のうち、B案の編年とよく整合することが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに蓄積していた一次資料が数多かったため、1年間のコロナ禍で現地調査が実質上できなかった影響もほとんどなかった。むしろそれら一次資料を整理し、分析し、報告する時間が取れたことで、これからの研究の見通しと指針が定まったため。
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今後の研究の推進方策 |
現状においては、いまだ現地渡航の再開時期が明確に見通せないものの、日本および現地における感染状況の推移、ワクチン接種状況の推移をもとに、今年度の後半、特に10月後半以降に現地渡航が再開できるという前提の下で今後の研究計画を再編する。
本研究における核心的資料、すなわち、コパンにおける王朝創始時期の建造物と考えられているフナル、ジェナル、マルガリータとその他の建造物間の建築層位関係をより明らかにするためには、共用設備として今年度に導入したハンドヘルド3Dスキャナー(可搬式LiDAR)を使って、建造物10L-26(26号神殿)内のヤシュ、モットモット、パパガヨとの関係を明らかにすることが必要不可欠である。また、これら建造物10L-26内の3つの建造物と、隣接する建造物10L-11(11号神殿)内の建造物との間の建築層位を明確にすることが必要不可欠である。これらの点は、研究代表者が共用機器をもって現地に渡航する11月に確認する予定である。それまでの期間は、現地スタッフを通じて、建造物10L-7(7号神殿)の小規模な発掘調査を継続し一次資料の収集を続ける。さらに、1990年代にペンシルバニア大学調査団が核心的資料の中から収集した炭化物資料は、協定締結機関であるホンジュラス人類学歴史学研究所にすべて引き渡されているので、それらの資料の選定および、建造物10L-11内の資料収集を行い、放射性炭素年代測定にかける準備を行う。こういった分析を通じて、王朝創始時期の特定を進め、もう一つの焦点であるグアテマラ・ペテン低地のティカル遺跡およびグアテマラ高地のカミナルフユ遺跡の同時代資料とも比較しつつ、コパンにおける王朝成立のプロセスを追求する。
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