研究課題/領域番号 |
18H03590
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高橋 龍三郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80163301)
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研究分担者 |
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
藤田 尚 新潟県立看護大学, 看護学部, 准教授 (40278007)
太田 博樹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40401228)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 氏族制社会 / ゲノム解析 / 食性分析 / トーテム動物 / 古病理学研究 / 親族組織 / 婚姻制度 / 単系出自 |
研究実績の概要 |
2019年度の調査研究については、(1)研究代表者としての考古学的調査・研究 (2)専門的知識の供与に関する調査 (3)分担研究者への指示、調整などがある。 (1)代表者としての考古学的調査:本研究の主課題である縄文時代中期から後期への移行過程の解明と社会変動について調査研究した。環状集落の解体に端を発する集団の分散化と氏族制社会の出現に関するプロセスを、集落論、土器論、遺物論の立場から資料を分析した。これらについて、高橋は今までの研究成果に基づいて学会などで講演し論文として公表した。 (2)専門的知識の供与に関する調査:本課題を遂行する上で必要な個別専門的知識につき、8名の研究者から最新の情報を提供してもらった。樋泉岳二氏には、縄文時代中期及び後期の東京湾を巡る漁労活動について、また新津健氏、今福利恵氏には中部高地における中期土器の動物把手の起源と展開について、会田進氏、寺内隆夫氏、水沢教子氏には長野県における動物形装飾の他に土偶、集落の変遷について、末木健氏には山梨県下の土器型式、縄文集落について教示を得た。また池谷信之氏に千葉県下の動物形土製品に関する蛍光X線による胎土分析を依頼しデータを得た。 (3)研究分担者との会議を2回開催し、研究の進捗状況について把握した。分担研究者の藤田尚准教授の調査(縄文遺跡に残る故病理学的痕跡の研究)につき、千葉市加曽利貝塚、福島県前田遺跡からサンプルを採取するにあたって担当者との調整をし、現場に立ち会って調査を補佐した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の研究は(1)考古学的研究による中期社会の解体と後期社会(氏族制)の確立に向けた社会変動の理論的解明と、(2)縄文中期および後期人骨のゲノム解析、(3)ヒトおよび動物の食性分析、(4)古病理学的研究から成り、4者の統合により縄文中期から後期にかけて起こった親族構造、婚姻制度、出自体系の大規模な変動について明らかにすることである。(1)については後期動物形土製品の成立(トーテム氏族集団の出現)に向けた中期の動物形突起など動物意匠との関係性、連続性について調査が進展しており、勝坂期の中部高地に展開する動物意匠がそのまま後期に連続するのではなく、中期後半加曽利E式期以降の展開が大きな意味を持ち、群馬、栃木、千葉県などの動物形突起の変遷過程を追跡する必要性が明らかにされた。その時期は丁度中期環状集落の解体期と重なっており、集団編成が大きく変容する時期と考えられ、後期の氏族制社会に向けた変革であることが推定されている。 (2)については、千葉県市原市西広貝塚、祇園原貝塚、菊間手永遺跡などの後期、晩期の人骨からDNA解析が進展しており、2年間の調査を通じて従来以上の大きな調査成果が挙げられている。特に千葉市、市原市を中心とする後期、晩期人骨の集中的解析は初めてのことで、当該地域で起こった縄文社会の大きな変動についてゲノム研究から明らかにされつつある。また(3)の食性分析をヒト以外にイノシシやイヌなどの動物に対しても行い、特定集団と特定動物間の密接な関係性を解明中である。(4)古病理学的研究を関東地方の中心に実施しており、遺跡からの病原体のサンプリングと分析を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の調査研究により、考古学的研究とゲノム研究、食性分析、古病理の検討が進展したので、これからの2年間はそれらの統合研究に向かう。2020年度はその第1年目として以次の研究を計画する。(1)ゲノム解析、食性分析、古病理学研究の推進。(2)中期末に起こったの集落編成を集団構造の変革として把握し、双系出自(重系、共系)から単系出自への変革過程を、双分的集落構成から分散的集落への変遷として考古学的に把握できるかの検討。(3)中期後半期土器の動物突起から後期の動物形土製品が出現する過程を描出できるかの検討。トーテミズムの成立の証明。(4)(2)・(3)の研究にから、トーテム制氏族制社会が出現する過程を総合的に描き出すモデルの構築。(5)ゲノム配列状況から、集団内および集団間の遺伝的多様性を定量的に明らかにし、3つの遺跡(西広貝塚、祇園原貝塚、菊間手永遺跡)から残存DNA量が良好であった3個体ずつ(合計9個体)のDeep Sequencingのデータの解析。一集落における単系出自集団のゲノムの在り方、一定地域における出自集団間のゲノム配列情報を明らかにし、周辺集落間の婚姻の在り方を推定するモデルを検討。特に母系制社会の成立とーテミズムに基づく通婚形態の復元が可能かどうかを検討。(6)トーテミズムに基づく特定動物の扱いについて食性分析から明らかにする。同じイノシシやイヌであっても信奉する集団の違いによって、食性が異なることが予想され、それを証明することにより、トーテミズムに基づく単系出自集団の出現、すなわちトーテム制氏族社会の成立を証明することになる。(6)中期から後期への集団編成や出自原理の大掛かりな変革の背景に婚姻制度の変革が予想されるが、集落を単位とする疾病や栄養状態の調査のために古病理学的研究を推進する。
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