研究課題/領域番号 |
18H03591
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
西山 要一 奈良大学, その他部局等, 名誉教授 (00090936)
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研究分担者 |
植田 直見 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10193806)
桐野 文良 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (10334484)
野尻 忠 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 室長 (10372179)
早川 泰弘 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 部長等 (20290869)
今津 節生 奈良大学, 文学部, 教授 (50250379)
東野 治之 奈良大学, その他部局等, 名誉教授 (80000496)
関根 俊一 奈良大学, 文学部, 教授 (80154649)
望月 規史 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部企画課, 研究員 (80635251)
成瀬 正和 東北芸術工科大学, 芸術学部, 客員教授 (90778630)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鍮石・真鍮 / 紺紙金字経 / 中世の鍮石製遺品 / 近世の真鍮製品 / 自然科学と人文科学の学際研究 / 保存科学 / 美術史学・史料学 / ブラスロード(真鍮伝来の道) |
研究実績の概要 |
携帯型および据付型の蛍光X線分析装置など多種の科学分析器機を活用して真鍮製考古資料・美術工芸品の成分分析等を行った。三重・大宝院所蔵千手千眼陀羅尼経の詳細な科学分析、新収の平安~江戸時代の紺紙金字経・同断簡の分析などによって、経典写経における真鍮泥使用の広がりを把握した。 また古代~近世の青森・八戸丹後平古墳、根城跡等、近世の京都・平安京遺跡、和歌山城跡などの出土銅合金・真鍮資料・鋳造資料を悉皆的に科学分析し、各遺跡・各時代における真鍮製品の実態を把握した。 美術工芸資料調査では、長谷寺・九鈷鈴(中国・元時代)、當麻寺・螺鈿玳瑁螺鈿唐草合子(朝鮮・高麗時代)、某美術館所蔵の経筒、象嵌鉄製笛(同・高麗時代)、偏壺(中国遼代)、岐阜・長暦寺所蔵の五鈷鈴2点の分析で、真鍮製または一部に真鍮を使う例を確認した。この種の日本製真鍮製品が見当たらないことから、古代~中世の日本では中国や朝鮮からの舶載真鍮製品のみが存在することが推測される。ただし、紺紙金字経は輸入真鍮インゴットを加工、または輸入真鍮顔料により書写されたものと思われる。 近世には日本絵画の彩色や文書に真鍮泥が使われる諸例を明らかにし、江戸時代以降の広範な真鍮利用の実態が判明しつつある。 史料学調査では、日本・韓国の真鍮関連の古記録の探索の中で、新たに朝鮮の「三国史記」に真鍮関連の記載を見いだし、その真鍮史上の位置付けを試みている。さらに、韓国の真鍮資料を同国の分析科学者の協力を得て科学分析データおよび記録データの収集を行った。 紀元前より真鍮製品(ローマコインなど)が存在するヨーロッパの諸例のデータも研究協力者の助力を得て収集し、日本の真鍮製品との共通性と差異、西アジアに発するとされる真鍮の起源とその伝来の道(ブラスロード)と歴史の一端を垣間見ることができた。これらの研究成果は、2019年度研究成果(冊子)にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三重・大宝院妙法蓮華経、大阪・松林寺大般若波羅蜜多経および紺紙金字経断簡等の金字を蛍光X線分析を行った結果、大宝院経典は真鍮泥を使用し、それぞれの巻・紙によって銅・亜鉛合金比の異なる真鍮泥や、真鍮泥に金を混合するなどの工夫が行われていることなど細やかな手法が判明した。また、大宝院千手千眼陀羅尼経(中尊寺経)の分析では、界線が錫泥で書かれていることが判明し、古代の写経使用の顔料の多様性を伺う新知見となった。 中世の鍮石・真鍮の可能性のある銅合金製品、京都・平安京跡の約50点、岩手・平泉遺跡の約100余点を悉皆的に蛍光X線分析を行ったが鍮石・真鍮製品は発見できなかった。その半面、朝鮮・高麗、中国・元代の舶載資料の分析では、予想に反して鍮石・真鍮製品であることが判明した。このことは古代~中世の鍮石・真鍮製品は輸入品で占められていたことを表わすものかもしれないとの予測を抱かしめている。 しかし、近世の奈良町遺跡の資料、近世平安京跡の資料、和歌山城地鎮具などの分析からは、近世になると真鍮製品の製造が急激に広まることを示している。 美術工芸品の分析では中国・元代の九鈷鈴、五鈷鈴、朝鮮・高麗時代の螺鈿玳瑁合子の縒線、経筒が真鍮製であることなど広範に鍮石・真鍮製品が存在すること、そして李朝時代の常平永寶が18世紀以降に真鍮製となることが判明した。 文献調査では、朝鮮「三国史記」に「鍮」「鍮石」の記述が見られ、古代・中世の東アジアでは鍮石・真鍮が多く利用され、18世紀には日本同様に多量に真鍮製品が製造されていることが推測される。 以上の通り、予想以上の成果もあり2020年度の研究目的はほぼ達成することができている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画の第4年度の方針にしたがって以下の通り調査・研究を推進する。 科学分析研究分野では、京都・平安京跡、大阪・堺環濠都市遺跡、福岡・太宰府遺跡などの古代~近世の遺跡出土の銅合金遺物の悉皆的分析調査を継続するとともに、近世の奈良町遺跡の真鍮工房関連資料の継続分析も行い、また、高野山・金剛峯寺所蔵の経典群や寺院・博物館等所蔵の紺紙金字経などの分析調査を進め、古代~近世の真鍮利用の実態と変遷を明らかにする。 また、美術工芸研究分野では、日本に現存する中国・韓国からの将来仏具等を中心にして分析を進めるとともに、中国・韓国の古代~近世の出土資料を含めて、美術工芸品の分析も、中国・韓国の研究者の協力を得て行う。 史料学研究分野では、日本の古記録・文献記載例とともに、韓国・中国の研究者の協力を得てそれぞれの地域の古代~近世の真鍮利用の動向と新史料を見いだすことを進める。さらに、ヨーロッパ諸国の真鍮研究の研究者の協力を得て、それら地域の真鍮の歴史の概要を把握し、ブラスロード(真鍮の伝来)を明らかにしていく。 これらの成果は、本研究4年間の総括報告書にまとめ公開するとともに、研究会、公開講演会を開催し広く成果を公表する。ただし、新型コロナウイルス感染拡大により研究会、講演会の開催が不可能となった場合には、インターネットを使った研究会・講演会とする。
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