研究課題/領域番号 |
18H03595
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
林 勲男 国立民族学博物館, 超域フィールド科学研究部, 教授 (80270495)
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研究分担者 |
佐藤 翔輔 東北大学, 災害科学国際研究所, 准教授 (00614372)
石原 凌河 龍谷大学, 政策学部, 准教授 (00733396)
定池 祐季 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (40587424)
阪本 真由美 兵庫県立大学, 減災復興政策研究科, 准教授 (60587426)
松岡 正子 愛知大学, 現代中国学部, 教授 (70410561) [辞退]
ボレー セバスチャン 東北大学, 災害科学国際研究所, 准教授 (70751676)
齋藤 千恵 金沢星稜大学, 人文学部, 教授 (80387943)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 災害 / 復興 / 遺構 / モニュメント / 津波 / 地震 / 防災教育 / 博物館(ミュージアム) |
研究実績の概要 |
現地調査は次のとおりである。佐藤が高知県にて津波碑に関する調査とデータ分析をおこなった。定池は、台湾921集集地震被災地との比較のため、北海道胆振東部地震被災地で生活復興期におけるコミュニティの変化と防災教育の状況に関する調査をおこなった。インドネシアのバンダアチェでは、齋藤がアチェ津波博物館と発電船博物館の展示と来館者に関して、ボレーがアチェ津波博物館、アチェ市文化観光局にて防災興育活動の現状と今後の展開に関して、阪本が2004年の津波災害犠牲者の追悼式典の変遷に関してそれぞれ調査を実施した。石原は、四川大地震被災地にて災害遺構に関して調査した。林は、房総半島太平洋岸にて元禄大津波の記録としての石碑並びに犠牲者供養行事に関して、文献並びに現地調査を実施した。また、アチェ津波博物館館の展示と防災教育に関する調査と、追悼式典への参与観察をおこなった。 2020年1月24日から25日に神戸で開催された「2020世界災害語り継ぎフォーラム」にて、本科研で分科会「災害遺構と記憶の継承」を主催した。石原が座長となり、林が趣旨説明をおこない、国内から3名、海外から2名が災害遺構について、その保存と防災教育に向けた利用の現状と課題について報告し、ディスカッションをおこなった。また阪本は、「語り継ぎとローカルコミュニティ」の座長の役目を果たした。また、他の研究分担者も全員がこのフォーラムに参加して、これまでの研究成果に基づいて発言し、人的ネットワークの拡充に努めた。このフォーラムの成果は2021年に英日語で刊行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国四川省チベット族自治区での住民を対象とした調査の継続が難しくなっている。当分の間、調査研究の進展が困難な状況が続いている。現在、中国では政治的な問題から、外国人の「調査」が難しくなり、調査者である外国人だけでなく、調査対象となることによって外国人に情報を「漏洩」したとみなされる地元民にも影響を及ぼしている。四川大地震の被災地であるチベット族チャン族地区では、さらに民族問題がからんでいるため、一層敏感であり、この数年間は四川省民族研究所や四川大学との共同調査であっても、調査の困難の度合いが増している。さらに、これまで調査に便宜を図ってもらっていた民族研究所の所長が病に倒れ、入院したままである。本年度は災害遺構に関する石原の調査は可能であったが、松岡は上記の状況から判断して、四川省での現地調査を見合わせることとした。また、住民へのインタビュー調査を再開できるめどが立たないため、松岡は2017年刊行の著書『青蔵高原東部のチャン族とチベット族-2008ブンセン地震後の再建と開発』(論文篇、写真篇)の中国語版の出版計画が台湾の出版社より2022年3月刊行をめざして進んでおり、その翻訳作業や編集に注力したいとの理由で、本科研の研究分担者から外れることとなった。研究成果の現地社会を含めた中国語圏への還元という点からも、松岡の離脱は致し方ないと判断した。 2020年1月に神戸市で開催された「2020世界災害語り継ぎフォーラム」にて、本科研で主催した分科会「災害遺構と記憶の継承」では、国内3名海外2名の発表とそれに基づく質疑応答とディスカッションをおこなった。多くの聴衆を集め、関心の大きさを改めて知った。当初予定していたアチェ津波博物館スタッフによる発表は、スタッフの本務との関係で招聘できなかった。それでも本分科会を通じて、多くの情報と意見の交換をおこなうことができた。
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今後の研究の推進方策 |
災害遺構に関して、保存の候補に挙がりながらも解体撤去された被災建造物については、現地において住民視点からのデータを収集することが、時間の経過とともに難しくなっているのは事実である。しかし、東日本大震災で甚大な津波被害を受けた岩手県大槌町では、街の庁舎と民宿の屋根の上に漂着した観光船の保存か解体撤去化をめぐって住民間で大きな議論となり、結果的には両遺構とも撤去された。「2020世界災害語り継ぎフォーラム」にて主催した分科会「災害遺構と記憶の継承」において、この大槌町の事例について当初から調査してきた研究者の発表によると、保存に向けて積極的に活動した住民は、既に撤去された現在においてもその遺構保存の意義について熱心に語るとのことであった。聞き取りをおこなう対象者について検討する必要があるようである。その一方で、大多数の住民は保存か解体・撤去かの議論を、すでに決着がついた過去の出来事として想起を避ける傾向にあるのも事実であり、今後、どのようにアプローチするかの検討が必要である。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、次年度の現地調査がどこまで可能かの見通しは立っていない。状況次第では調査地の変更も致し方ないと考えている。被災地での遺構やモニュメントと結びつけられた語り部活動や防災に向けた教育活動については、COVID-19への対応のため、その活動自体の場所や媒体が変わっていく可能性もある。例えば対面式からビデオ映像による伝達などである。そうした変化とその要因についても明らかにしていきたい。
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