研究課題
本年度は,哺乳類,爬虫類,両生類が含まれる陸上脊椎動物のアジアにおける種多様性に関するこれまでのフィールド調査をもとにした分布デ ータ・変異データの解析をすすめ,継続して文献データの整理を行った.特に種内での形態や遺伝子に見られる地理的変異や系統地理分化パタ ーンについて解析した.日本,韓国,中国,台湾,ベトナム,ラオス,タイ,ミャンマー,バングラデシュ ,ネパール,ブータンに分布する哺乳類・爬虫類・両生類全種についての作業を継続して行った.分布情報についてはGISを用いてデータベース化し,IUCN分布データもあわせて分布パターンの解析を進めた.遺伝子情報についてもデータベース化をすすめ,種同定の正確性を精査しながら,系統学的・系統地理学的解析を進めた.重要ないくつかの分類群として,広域に分布するグループで旧北区と東洋区の境界線再検討の鍵になると思われる分類群,標高の高い山地などに遺存的に分布する一方で境界線に示唆を与えそうな分類群の主に2つについて重点的な解析を行った.特にトガリネズミ類,モグラ類,トカゲ類を中心に,ベトナム,ラオス,ミャンマーの隔離された高標高分布,島嶼である琉球列島でフィールドワークを行った.成果の一部は日本哺乳類学会,日本爬虫両棲類学会の年大会,研究代表者が日本学術振興会研究拠点形成事業の一環として9月にフエ農林大学で開催した第9回アジア脊椎動物種多様性国際シンポジウムで成果発表した.個々の分類群の解析の一部は研究代表者が研究指導する博士課程4名,修士課程5名の大学院生,研究分担者の指導学生なども参画して行った.また,継続して進めてきたる動物地理区系概念の研究史についても,それぞれの動物種の解析と平行して文献調査を行った.対象とした分類群で得られた研究業績について,学術論文として国際学術雑誌に公表した.
2: おおむね順調に進展している
フィールドワークはベトナム,ラオス,ミャンマー,琉球列島で行い,充実した成果を得ることができた.一方で,ミャンマーの標本は現地での解析を予定していたが,新型コロナウイルス感染拡大により渡航を中止したために,遅れが生じている.それ以外の標本についてのデータ収集と解析は予定通り進んでいる.相手国研究者との連絡調整は順調に行われている.分布情報のデータ化は標本データのデータベースとあわせて進めており,入力作業を進めているが,解析が少し遅れている.東・東南アジア各国の共同研究者やその他の脊椎動物研究者と,動物地理区の見直しに関わるいくつかの種の多様性現況について情報収集と意見交換は順調に行われている.また本研究に関連した論文の出版も進めることができている.このようなことから本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる.
今後の研究の方策として動物地理区である旧北区と東洋区の境界についてコネクティビティ概念に基づく検討を引き続き進める.これまでの研究で河川が分類群ごとの境界に異なる影響を与えると考えられるようになった.また,その背景として動物群によって異なる分散能力や分散様式が関与している可能性が高い.そこで,研究の大きな枠組みは変わらないが,中国南部からベトナム,ラオスにかけての地域での動物地理学的再検討を河川と関連する山系,特に高い山に孤立的に分する種に着目して,機能形態学や生態学的視点も入れた解析をさらに進めていきたい.また,動物地理学における島嶼部における境界については琉球列島における解析で新たな課題が浮かび上がった.これについても陸橋のコネクティビティに着目した新たな視点での検討を進めていく予定である.また韓国の済州島の島嶼集団としての動物地理学的重要性が新たに浮かび上がってきたので,同島における分布種の文献や実際の標本に基づく見直しも進めていく予定である.
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 8件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (41件) (うち国際学会 15件、 招待講演 2件) 図書 (2件)
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