研究課題
本研究は、中央アジア牧畜民の環境利用、生業ー経済活動、他民族との関係を「牧畜連続体」の観点から歴史生態学的に解明することを目的としている。歴史軸の中心に「家畜化」を据える。「家畜化」の課題については、ウマの最初の家畜化、青銅器時代における中央アジアにおける牧畜社会と農耕社会の接触、軍事におけるウマ、ラクダの使用、19世紀交易におけるラクダの使用などの「ヒトー動物関係」の歴史的展開について、おおよそのアウトラインを描くことができた。家畜を媒介にした生態、自然環境、社会環境との相互作用については、とくにラクダの生物学的、経済学的価値の重要性が再確認された。環境変動にともなう砂漠化にもっとも適応している家畜はラクダであり、将来にわたって人類に食料を提供できる動物である。また、乳の利用、毛の利用、観光用(騎乗、牽引)、娯楽(ラクダ・レース、ラクダ相撲)など、現代社会においてもラクダの経済的価値は大きい。以下に研究分担者各自の研究成果を列挙する。カザフスタンのボタイ遺跡を訪れ、約5000年前の馬の家畜化を裏付ける動物資料を得た(斎藤)。キルギス天山山中にある青銅器時代の遺跡モル・ブラク1遺跡の発掘調査とその周辺の踏査を実施し、高地環境での移牧の成立過程を通時的に明らかにするための考古記録を収集、解析した(久米)。カザフ人が移牧にともないラクダを運搬に使っている実態を調査した(今村)。モンゴルとカザフスタンにおける牧畜文化と技術、環境利用についてのあらたな資料を得た(星野、児玉)。カザフスタン・小アラル海地域における牧畜の実態と社会・経済問題について聞き取りと視察を行い、アラル海の生態危機への対策として牧畜が再評価されていることを明らかした(地田)。ウズベキスタン共和国、ロシアの文書館を調査し、資料収集・分析を行うとともに、中央アジア史関連の二次文献の収集を行った(塩谷)。
2: おおむね順調に進展している
「牧畜」あるいは広く「ヒトー動物関係」を共通の分析概念として、中央アジアの歴史と現在進行中で起きていることを解析することが、本研究プロジェクトの目的である。考古、歴史、生態、遺伝、経済、文化人類学のそれぞれの分野が相互に情報交換し連携しながら、新しい中央アジア像を構築し、同時に「ヒトー動物関係」の社会進化を明らかにしようとしている。平成30年度は、本研究の初年度であり、まず、何ができるか、どのような資料を集めるべきかを確認する作業が中心であった。5月に第一回研究会を開き、共通認識すべきことについて議論した。その後、それぞれの研究分担者が現地に赴いて資料収集に努め、短時間のうちに資料の整理と分析を行った。研究結果を学会の場で発表し、学会誌等へ精力的に論文投稿を行った。また、12月に第二回研究会を開き、それぞれの分野のこれまでの研究基盤と背景を研究史も含めて解説し、同時に各自の最新の研究成果について発表した。分野間の横断的な協力体制についても確認した。遺伝と考古の分野は分析資料が十分に集められなかったこともあり、やや進捗が遅れているが、それ以外の歴史、生態、経済、文化人類学の分野は、着実に資料を集め、分析が進んでいる。また、分野間の共同研究も始めている。
2019年度は、研究分担者各自が、それぞれの分野において必要な資料を収集、獲得することに集中する。(1)カザフスタンにおいて現地の社会状況と研究サポート体制を確認し、現地調査を1週間程度行う。この調査によって、牧畜技術(とくに馴化の問題)、放牧地の環境評価、家畜の経済価値についての考察を行う。(2)モンゴル国および中国内モンゴル自治区において、牧畜技術と環境評価について資料を収集する。(3)ボタイ遺跡における「ウマの家畜化」起源問題について最新の情報収集を行う。(4)中央アジアの初期農耕社会と牧畜社会の相互関係に関する考古学的資料を収集し解析する。(5)中央アジアの18~19世紀交易に関する古文書のリストに基づき、ロシア、ウズベキスタン、カザフスタンにおいて資料を収集する。牧畜民と商人の関係を注目しつつ交易の実態を解明する。(6)研究分担者以外に関連分野の研究者を加え、研究会を開催する。(11月)(7)日本文化人類学会において本科研テーマに関するシンポジウムを開催する。(6月)(8)同じく、本テーマについての研究成果を、国際学会(ESCAS European Society for Central Asia Studies、英国Exeter大学で6月開催)で研究分担者5人が発表する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 8件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 図書 (3件)
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