研究課題/領域番号 |
18H03608
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研究機関 | 名古屋学院大学 |
研究代表者 |
今村 薫 名古屋学院大学, 現代社会学部, 教授 (40288444)
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研究分担者 |
地田 徹朗 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 准教授 (10612012)
兒玉 香菜子 (児玉香菜子) 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (20465933)
斎藤 成也 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 教授 (30192587)
久米 正吾 金沢大学, 古代文明・文化資源学研究センター, 特任助教 (30550777)
塩谷 哲史 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (30570197)
星野 仏方 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (80438366)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中央アジア / 歴史生態学 / ヒトー動物関係 / 家畜化 / レジリアンス / 牧畜 |
研究実績の概要 |
本研究は、中央アジア牧畜民の環境利用、生業―経済活動、他民族との関係を歴史生態学的に解明することを目的とする。人類史における家畜化のプロセスを明らかにするだけでなく、当地域の史的独自性と現状のより正しい理解を導き、さらには気候変動の影響を受けやすい中央アジア地域の資源の持続的利用に資することができる。 中央アジア東部の初期牧畜民においては、ダルヴェルジン遺跡出土土器の脂質分析に重点を置き、初期農耕牧畜民の調理・飲食行動に関する研究を進めた結果,キビと乳利用の可能性が明らかになった。また、不飽和脂肪酸が高温加熱された際に生成される環状有機物が土器の器種に関わらず多くの土器から検出され、土器の機能についての新たな研究課題を得た。 19世紀の中央アジアとロシアとの相互関係を、ラクダに注目した交易の実態から、1847年のヒヴァ・ハン国とロシアとの軍事衝突の背景に、両国間の交易、境界画定をめぐる交渉があったことを明らかにした。 現在の牧畜社会の実態については、昨年度同様、現地調査ができなかったが、これまでに収集した資料を分析したり、現地のカウンターパートに現地調査を依頼したりして、研究を進めた。その結果、カザフスタンの牧畜政策の中でも、2018年制定の「放牧地法」の意義が重要であり、アラル海災害からの復興について、牧畜という生業はレジリエンスの概念から重要であることが明らかになった。 また、モンゴルのモンゴル自然環境観光省所属、モンゴル国気象・水文・環境情報研究所に業務委託して、ランダムで選んだモンゴル全国120軒の遊牧民家庭に対して、「新型コロナウイルスの中で、遊牧民の生活・家畜放牧の方法・環境利用、コミュニティの行動の変化」に対するアンケート調査を行った。この結果は分析中であるが、牧畜民の災害に対する対応と、牧畜民のコミュニティネットワーク形成の実態について明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症の世界的流行により、2020年度に引き続き海外渡航が困難な状況が続いている。これにより、現地での調査と資料収集が困難になった。しかしながら、2021年度で得たノウハウを生かし、①これまで海外の現地から収取した資料(考古資料、ラクダDNA資料など)を日本国内で分析することに注力する、②インターネットによって、海外の文献資料、報道資料を入手する、③現地のカウンターパートの協力を得て、必要なデータを収集する、という手段によって研究を進め、一定の成果を得た。 2021年に栃木において第5回研究大会(ハイブリッド方式)、2022年3月に恵那で第6回研究大会(ハイブリッド方式)を開き、研究成果の共有をはかった。また、2022年1月に、科研基盤(S)「中東部族社会の起源:アラビア半島先原史遊牧文化の包括的研究」(研究代表者:藤井純夫)との合同研究会(ハイブリッド方式)を開き、家畜化に関する有意義な知見を得た。 国内学会、国際会議等もオンラインで活発に開催されるようになり、研究発表や研究成果の公表の機会が増えた。これらにより、中央アジアの牧畜社会の研究を考古、歴史、生態、政治の観点から進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、5年間の研究プロジェクトの最終年度なので、これまでの研究で抜け落ちた部分を補強しつつ、メンバー全員で出版物を上梓することで研究成果の公表を目指す。目標としては2冊の書籍を出版する予定である。また、2022年度は新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着くと予測して、必要であれば海外渡航も行う方針である。具体的な各自の目標は以下のとおりである。 キルギス及びウズベキスタンでの発掘調査を本格的に再開し、これまでの課題であった定着的な初期牧畜民に関するデータの充実を図る(久米)。カザフスタンの人類集団のDNA解析から、中央アジアにおける歴史的な人の移動を明らかにする(斎藤)。 18~19世紀の中央アジア(ヒヴァ・ハン国)とロシアとの交易の実態とラクダの利用について新知見を得るべく、旅行記史料や公刊・未公刊の文書史料の検討を続けていく(塩谷)。カザフスタンの「放牧地法」に注目し、各地域での牧畜の慣行、畜種の特徴、放牧地の利用・管理についてまとめる。その上で、アラル海地域の牧畜がどのような特色をもっているのか、ということを改めて検討する(地田)。現地のカウンターパートの協力を得て、気象データ、植生データ、GPSデータを収集して分析する(星野)。 中国内モンゴル自治区において、人民公社解体にともなう家畜の私有化と市場経済化のなかでラクダ頭数が劇的に減少しており、その要因の解明に取り組む(児玉)。カザフスタンおよびモンゴル牧畜民に、近年の砂漠化にどのような対応を行っているかについてアンケートした調査結果を分析する(今村)。
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備考 |
研究成果を中心としたWebページである。国際的な情報発信と情報共有を目指し、和文・英文両方のバージョンを作成している。また、科研の成果報告を毎年1冊発行しているが、同時に、Web Journalとして公開している。
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