研究課題/領域番号 |
18H03635
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
井堀 利宏 政策研究大学院大学, 政策研究科, 特別教授 (40145652)
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研究分担者 |
板谷 淳一 北海道大学, 経済学研究院, 教授 (20168305)
吉川 洋 立正大学, 経済学部, 教授 (30158414)
小西 秀樹 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (50225471)
赤井 伸郎 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (50275301)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 財政制度 / ミクロ財政指標 / マクロ財政指標 / 利害調整 / 利益団体 / 公共財 |
研究実績の概要 |
本年度は、主として以下の研究課題を取り上げた。 (A)政府間財政制度と民間経済活動の対応関係に注目し、中央・地方政府の財政赤字累増のメカニズム、地方補助金、公共事業の効果を実証分析して、政府が必ずしも最適に行動していない現実的な次善解での政府間財政のあり方を踏まえた健全化戦略を考察した。 (B)消費税や社会保障歳出を中心に利益団体などによる増税回避、歳出獲得行動におけるミクロ財政指標の非効率性を検証し、財政健全化の政治経済的影響を考慮して、財政赤字累増の誘因を内部化する枠組みを研究した。 (C)平時と非常時を区別し、非常時における景気対策、債務危機対策などのあり方を事前準備と事後対応の両面から分析することで、持続可能でマクロ経済活動や政府の効率性に留意した財政健全化戦略を考察した。 これらの研究課題について、ある程度具体的な研究成果が得られたものを論文や本の形で公刊した。また、いくつかの国際学会でも研究報告を行って、有益な研究交流を実施し、研究の発展を試みた。そうすることで、(A)(B)(C)の研究課題を考察する上で重要な示唆を得ることができた。 とくに、Ihori=Kamedaの共著で公刊した著作Procyclical Fiscal Policy (Springer)では、財政政策が景気順応的であるケースについて研究し、途上国のみならず我が国のような先進国でも、政治的な環境に非効率性があり、政府の財政運営が政治的に弱い状況で、政府支出とGDPが正の相関を示すことのもっともらしさを理論的、実証的に検証した。この分析結果は、中央政府と地方政府の政府間財政問題に内在するソフト予算制約の功罪を評価する上でも重要な示唆を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大きく3つの研究課題[政府間財政(A)ミクロ財政指標の健全化戦略(B)平時と非常時の財政運営(C)]を想定して研究を進めてきたが、論文や本として公刊する成果がいくつもあり、2018年度の研究課題は順調に進展していると判断できる。 また、国際学会での研究成果の報告も数多く行っており、内外の研究者から有益なコメントを得て、それを生かす形で研究を発展させた。この点でもおおむね想定通りの研究成果が得られている。 さらに、研究分担者、研究協力者および海外の共同研究者との研究打ち合わせや研究活動の調整も活発に実施しており、この面での研究活動もおおむね順調に進展している。 特に、理論面での研究は想定以上に成果を上げている分野(B)もある。実証面でも、(C)の分野では著作Procyclical Fiscal Policy (Springer)における分析で興味ある結果を得ている。 ただし、ミクロ財政指標の効率性に関する実証的な研究課題では、データの収集、整理に少し時間を要しており、この点での研究進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今までの研究課題について、より考察を深めるとともに、新しく以下の課題についても、研究を推進していきたい。 (D) 高齢化社会での社会保障歳出需要の実情を検証し、歳出に上限を設定することなどで効率的で公平な歳出改革が可能かどうかを考察し、マクロ指標でみた望ましい財政規律ルールを解明する。 (E) 人、資本、情報が移動する状況で生じ得る国際的な不安定性や災害などの外生的リスクに財政面での国際協調がどの程度有効かを理論・実証的に検討し、健全化戦略の国際的な制度設計を考察する。 (F)異次元の金融政策で財政ファイナンスが実施されている状況で、財政・金融両政策当局の相互依存関係を動学ゲームで分析することで、金融政策の出口戦略を視野に入れた財政健全化戦略を理論的、実証的に考察する。 これらの諸課題を着実に研究するには、海外共同研究者との理論分析をさらに発展させるとともに、制度の実情調査やデータに基づく実証分析を強化することも重要になる。今後は広く研究協力者に本格的に本研究に参加してもらうとともに、データ分析に秀でた研究者にも必要に応じて、研究の支援を求めていきたい。
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