研究課題/領域番号 |
18H03667
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
都築 暢夫 東北大学, 理学研究科, 教授 (10253048)
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研究分担者 |
志甫 淳 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (30292204)
阿部 知行 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 准教授 (70609289)
中島 幸喜 東京電機大学, 工学部, 教授 (80287440)
山内 卓也 東北大学, 理学研究科, 准教授 (90432707)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | F-アイソクリスタル / 最小スロープ予想 / Newton多角形 / p進表現 / Dwork予想 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、K.S.Kedlayaが提唱した「最小スロープ予想」を研究代表者が肯定的に解決した。Kedlayaは代数多様体のスロープフィルトレーションを持つ既約過収束Fアイソクリスタルは、スロープが最小の部分収束Fアイソクリスタルにより決まると問題提起した。この研究では、任意の完全体上の代数曲線の場合にはスロープ最小の部分収束F-アイソクリスタルが同型な2つの既約過収束F-アイソクリスタルは同型になることを証明した。さらに、有限体の場合には次元に寄らずにKedlayaの予想が成り立つことを証明した。双対的に考えることにより、大域的に有界な収束FアイソクリスタルにFrobenius構造と微分構造が保たれる形で含まれる過収束F-アイソクリスタルの階数が収束Fアイソクリスタルの階数以下になることが示て、予想が証明される(論文投稿中)。90年代のJ.A.de Jongの仕事や10年頃に海外協力研究者のB.Chiarellottoと研究代表者による対数的増大度に関する仕事が本質的に用いられる。M.D'Addezioらはこの結果を拡張して過収束F-アイソクリスタルのモノドロミー群に関する応用を与えている。
2019年7月に広島大学にて「第18回広島仙台整数論集会」を開催した。若手整数論・数論幾何学研究者の登竜門的な研究集会で、非常に活発に研究発表があった。11月に東北大学にて数論幾何学におけるp進的な方法に関する国際シンポジウム「p-adic cohomology and arithmetic geometry 2019」を開催し、CrewやKedlayaを含む内外の第一線の研究者が講演をし、互いに活発な議論を広げた。このシンポジウムに参加した本研究課題の研究協力者などの若手研究者が、海外の超一流の研究者と知己となり、研究交流を始めているなど、有意義なシンポジウムとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
最小スロープ予想は、標数p>0の代数多様体上のp進局所系と呼ばれるものが最小スロープ部分で決定されるというものである。Kedlayaの予想は大域的なものであるが、研究代表者は局所的にこの定理を証明して、スロープがジャンプする点の周りでの局所系の拡張に関する議論をすることで、代数曲線上でこの予想が肯定的に成り立つことを証明した。Langlands対応により、標数pの有限体上の代数曲線上のl進局所系とp進局所系は対応するが、Kedlaya予想はl進においては本質的に記述できないものであり、p進独自の代数多様体の数論幾何学的性質を反映した、または、反映すべき現象と言える。証明には研究代表者と海外研究協力者のパドバ大学のChiarellottoが発展させたFrobenius作用付きのp進微分方程式系のDwork予想が重要な役割を果たしている。Dwork予想は局所的な形式解のTaylor係数のp進付値の増大度に関する問題であり、有界な解に関する考察が本質的に重要な役割を果たしている。Dworkの予想は最終的には本研究課題の研究協力者の大久保俊が最近解決している。
2019年度に3件の研究集会を開催した。国際シンポジウム「p-adic cohomology and arithmetic geometry 2019」では、R.Crew、C.Hyughe, K.S.Kedlayaや本研究課題の分担者の志甫淳などp進コホモロジーの研究で世界を牽引している研究者を招聘して, 優れた講演を聞くことが出来、参加者による充実した研究交流ができた。p進的手法における数論幾何学の分野において、若い世代を含めたネットワークが形成された。
F-アイソクリスタルの研究において非常に重要な問題を肯定的に解決することができたので、「(1) 当初の計画以上に進展している。」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、Newton多角形の変動をキーワードとした正標数代数多様体上のF-アイソクリスタルの圏と代数多様体の幾何学的または数論的な性質の関係を明らかにすることを一つの目標としている。これまでの研究で、標数0の代数曲線の双曲性の概念とNewton多角形が変動するF-アイソクリスタルの存在の不思議な類似性があることがわかっており、その本質的な理由を解明することを目指している。今後の研究では、種数が2以上の代数曲線上のF-アイソクリスタルの圏について考察し、Newton多角形が変動するF-アイソクリスタルの性質の考察を行う。 2021年度の研究においては、2020年度の繰越研究と並行して、スロープがジャンプする点におけるF-アイソクリスタルの最小スロープ部分から決まるp進表現のモノドロミーに関して研究を進める。このような表現のモノドロミーが無限になることは、井草準一による楕円曲線族の超特異点の周りでのモノドロミーに関する研究から知られていた。最近ではJ.Kramer-Millerにより研究が進められている。大域的な性質と局所的な性質の両者の考察が必要であるが、本研究では局所的なアプローチから取り掛かる。研究代表者が解決した最小スロープ予想の数論幾何学的な意味が理解を、前述した局所モノドロミーの立場から考察する。これらの研究を通して、本研究では数論幾何学のp進的現象の研究を発展させる。
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