研究課題/領域番号 |
18H03672
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
舟木 直久 東京大学, 大学院数理科学研究科, 名誉教授 (60112174)
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研究分担者 |
佐々田 槙子 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (00609042)
長田 博文 九州大学, 数理学研究院, 教授 (20177207)
福島 竜輝 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (60527886)
笹本 智弘 東京工業大学, 理学院, 教授 (70332640)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 確率論 / 解析学 / 統計力学 / 数理物理 / 関数方程式 |
研究実績の概要 |
大規模相互作用系とは、もともと統計物理学の研究において用いられる各種の数理モデルの総称であり、莫大な自由度を持つ系である。以下、本年度の研究実績からいくつか具体的に述べる。本研究は、研究代表者と研究分担者らの緊密な協力の下に進められたが、研究実績は各テーマを主導した研究者ごとに述べる。 舟木は、確率8頂点モデルを導入し、特に非線形揺動の極限で新しいタイプのKPZ方程式が得られることを確認した.なお,KPZに名を連ねるG. Parisi氏は,2021年ノーベル物理学賞受賞者である.また、ランダム環境内の相互作用粒子系の極限として得られる特異な準線形放物型確率偏微分方程式について,一般に、局所解の存在と一意性を示した。特に粒子系から派生する場合には,時間大域解の存在と,保存量を指定するごとに異なる定常解に収束することを示した. 長田は、IFC条件を満たすための十分条件に関して一般論を構築した。この結果、前年の成果であるDirichlet形式の一意性が、広い範囲で成立することを証明した。 笹本は、KPZ普遍クラスに属する可解モデルを有限温度自由フェルミオンに関連付ける方法を見出したのち、それを用いてKPZ系を解析する新たな手法を開発した。特に、これまで未解決であった半無限系の解析を行うことに成功し、相転移現象がみられることを示した。他にも対称排他過程の大偏差を、古典可積分系と関係つける研究を行った。 福島は、向きのついた最速浸透問題やパーコレーションの路の数について研究を行った.またMott walkと呼ばれるランダム媒質中のランダムウォークについても研究を行った.佐々田は、昨年度に引き続き、非勾配型の系に対する流体力学極限の一般的な枠組みの構築をさらに進めた。証明の鍵となる閉形式の分解定理について、スペクトルギャップの一様評価など、いくつかの仮定の下で、一般的な証明を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KPZ(Kardar-Parisi-Zhang)方程式に関連する研究は、世界的な規模で推し進められ進展は著しい。そのような中、本研究では確率解析、可積分系の両面から研究を行い、新たなモデルの発見や新たなKPZ方程式の発見へとつながっている。 また、前年度に開始したランダム環境内の相互作用粒子系の極限として得られる放物型非線形確率偏微分方程式に関する研究も大きな進展を見せた。特に、この種の特異な確率偏微分方程式についてはほとんど知られていない時間大域解の存在および定常解への収束などを示すことができた。 このような点から、研究は予想以上に進展した部分もあり、総じて順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
大規模相互作用系の研究の一つの到達点として、非勾配型の相互作用粒子系から相分離界面の巨視的運動を記述する平均曲率流の導出を行う予定である。大規模相互作用系は、ほとんどの場合、非勾配型と呼ばれるクラスになる。非勾配型はスケール極限のもとで発散項を含むことになり、その取り扱いは困難を極める。これまでに得られた成果や知見を結集してこの困難を克服したいと考えている。 KPZ方程式の弱普遍性に関連して、Littlewood-Paley-Stein不等式と呼ばれる調和解析やマリアバン解析で有効な手法が使えるのではないかと考えている。この方面の研究も進める予定である。
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