研究課題/領域番号 |
18H03674
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
津田 健治 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 教授 (00241274)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 局所結晶構造解析 / 収束電子回折 / ナノ電子プローブ / リラクサー / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず、現有の精密結晶構造解析用エネルギーフィルター透過型電子顕微鏡JEM-2010FEFに、新たに高感度電子線用CMOSカメラを導入し、STEM-CBEDシステムを構築した。回折強度の角度分解能とデータ取得時間が従来に比べ大幅に向上し、3次元局所構造解析のためのデータ取得が可能なシステムを構築することができた。合わせて大容量STEM-CBEDデータ処理のためのプログラム開発を行った。 また、3次元ナノ局所結晶構造解析プログラムの開発に取り組んだ。電子回折ではシュレーディンガー方程式を解く多重散乱計算が必須であり大きな計算時間を要する。これに加えて、STEM-CBED法により得られる大量のCBED図形の解析ではさらに多くの計算量が必要となる。このため、多層neural networkを利用した多重散乱計算の予測機の作成を試みた。これまでわれわれが開発してきた、収束電子回折図形の多重散乱計算コードMBFITを用いて教師データを多数作成し、多層neural networkによる機械学習を行って予測機を得て、良好な性能が得られることを示した。これにより収束電子回折図形の計算時間を大幅に短縮することに成功した。合わせてMBFITコードに試料深さ方向の局所構造変化を記述する多重散乱モデルの実装を進めている。 さらに、不均一構造を持つリラクサーの局所構造解析の最初のステップとして、3次元リラクサーに比べて不規則構造のパラメーター数が少ない1軸性リラクサー物質のSTEM-CBED実験に着手した。また、リラクサー的誘電性を示す(Sr,Ba)2Nb2O7についてSTEM-CBED法を用いて局所構造を調べ、この物質が従来リラクサーで予想されるナノ局所構造を有しないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、新たな3次元STEM-CBEDシステムの構築を行い、大幅な感度向上および取得時間短縮を実現した。また、3次元ナノ局所結晶構造解析ソフトウェアの開発において、最も重要な基盤となる、多層neural networkによる機械学習の多重散乱計算への適用を行い、予測機として良好な性能を示すことを示した。これらにより、これまでにない大量のデータ解析を必要とするSTEM-CBEDデータの定量解析が実現しつつある。さらに、リラクサーのSTEM-CBED実験に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、前年度に構築した3次元STEM-CBEDシステムの最適化に継続して取り組み、大容量データ処理の効率化をはかる。3次元ナノ局所結晶構造解析ソフトウェアの開発として、畳み込みneural networkなど異なる構造を持つ多層ニューラルネットワーク利用の検討およびデータ解析用の周辺プログラムの整備を図る。また、新たな試みとして、多層neural networkの逆問題解法への適用に取り組む。これが実現すれば結晶構造解析における初期モデルが不要となり、モデルフリーの構造解析が可能となる。 開発した実験システムおよび解析ソフトウェアを用いて、不均一構造を持つリラクサーのリラクサーの局所構造解析に取り組む。前年度に、不規則構造のパラメーター数が少ない一次元リラクサーの解析に着手しているが、本年度はより複雑なPb(MnNb)O3系のリラクサーの解析に取り組む。分極ナノ領域(Polar nano region: PNR)の検出および分布を調べる。 さらに、電場印加によるリラクサーのナノ局所構造変化の解析に着手する。2軸傾斜電場印加試料ホルダーを導入し、電場印加可能なTEM試料作製を行う。電場印加前後でのナノ局所構造変化の解析を試みる。
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