研究課題/領域番号 |
18H03678
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村上 修一 東京工業大学, 理学院, 教授 (30282685)
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研究分担者 |
平山 元昭 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (70761005)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 物性理論 / トポロジー / 磁性 / スピンエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
第一に、トポロジカル物質の新舞台として、電子化物を提案した。電子化物では電子がアニオンとして構造を安定化しており、仕事関数が小さいため触媒等への応用が期待されている。この小さな仕事関数に着目し、量子化分極を持つトポロジカル絶縁相Sc2C、ノーダルライン半金属Y2C、Sr2Bi、量子スピンホール絶縁体HfBr、異常ホール絶縁体LaBr を発見した。 第二に非エルミート系のブロッホ理論の定式化を行った。エルミート系でのトポロジカル相の理論を非エルミート系に拡張する際に、バンドを記述する基礎理論が欠如していたため、非エルミート系でのバンド構造のブロッホ理論を1次元系で構築した。さらに非エルミート系で破綻すると思われていたバルク境界対応が1次元では成り立つことを示した。 第三に、トポロジカル半金属の一種であるノーダルライン半金属について、通常の絶縁体と組み合わせて超格子を作ったときのバンド構造とトポロジカルな性質に関する一般論を構築した。 第四にBICと呼ばれる、バンド内に現れる束縛状態について、波数空間で線状に出る場合があることを理論的に示した。2次元方向を向く擬スピンの自由度がある3次元系を考え、その上に、その系と巻き付き数が異なる2次元系を重ねた場合に、その巻き付き数の差により、表面の局在状態がバルクバンド内でも局在状態のまま残ることを示した。 第五に、表面弾性波について、電子系と同様のトポロジカル相を設計する方法の一つを提案した。物体表面に三角格子状の凹凸を設けた場合の表面弾性波を摂動論で求めた。さらに系を回転させたとき、コリオリ力で表面弾性波バンドにギャップが開き、量子ホール系と同様の相となり、カイラルエッジモードがギャップ中に現れることを理論的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までに、電子化物のトポロジカル相への親和性を検討し、第一原理計算を用いた複数の物質の検討によってその実証に成功している。さらに我々はトポロジカル電子化物の応用として、高密度キャリアの新たなドーピング法も提案している(幾何的キャリアドーピング)。Sc2C表面では量子化された分極に由来する巨大な表面電荷が出現する。この表面状態は原子に局在しておらず、小さな仕事関数を持つため、Sc2Cを基板として用いることで表面載せた物質に対して高密度の電子ドーピングを行うことが可能になる。 また非エルミート系の物理についても想定以上に成果が得られた。エルミート系での結晶中の電子のバンド構造を記述するブロッホ理論は、学部の教科書レベルの基礎理論であるが、この理論の非エルミート版を構築することに成功した。これは非エルミート系のバンド理論の基礎となり非常に汎用性が大きい結果であり、今後本研究においてもさまざまな方向へ発展できるものと考えている。 また高次トポロジカル絶縁体についても、ヒンジ状態がどのように出現し、結晶のどのヒンジに出現するか記述する理論を構築しつつあり、今後、物質への応用を含めて研究成果が出る見込みがある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、高次トポロジカル相を中心とした新奇トポロジカル相に対する電子化物の新たな展開を、解析計算および第一原理計算によって検討する。高次トポロジカル相の実験的検証では、複数の表面およびヒンジの安定性が必要となるため、現実物質の提案が乏しい。電子化物では、通常の原子軌道系と異なり、劈開表面においてアニオン電子を軌道中心で切断することが可能である。そのため、特異な表面・ヒンジを設計することが容易であり、高次トポロジカル相との親和性が高いと考えられる。 また高次トポロジカル絶縁体に関して、そのヒンジ状態がどのようにバルクのZ4トポロジカル不変量と関係するかを、切断過程という手法を導入することで記述する理論を構築する。さらにヒンジ状態の現れる場所がさまざまな空間群の下でどのようになるか考察する。これにより、例えば層状半強磁性体EuIn2As2等の候補物質において、磁気状態に応じてどのようにヒンジ状態が現れ、それをどのように観測するかを記述する理論を作ることができる。 また結晶中で現れるトポロジカルな縮退についても研究を行う。最近、2重縮退のワイル点でありながらチャーン数4を持つ場合があることを見出しつつあり、これがどのような空間群、どの波数の点で現れるかを考察し、合わせて物質に関する予言と第一原理計算を行う。 さらにスピン軌道相互作用とトポロジカルな縮退の関係について理解を深める。具体的にはKramers-Weyl点と呼ばれる、高対称点で現れるワイル点に対してスピン軌道を加えた際にバンド構造がどのようになるか一般論を組み立て、バレー自由度を3次元系で実現するためのヒントを得ることを目的とする。
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